マガジンワールド


FOOD NEWS vol.27 平野紗季子のMY STANDARD GOURMET『torse(トルス)』の和風ツナオムライス

FOOD NEWS
  • RESTAURANT _ 犬養裕美子
  • GIFT _ 真野知子
  • SWEETS _ chico
  • NEW STANDARD _ 平野紗季子
vol.27
平野紗季子のMY STANDARD GOURMET
『torse(トルス)』の和風ツナオムライス
「和風ツナオムライス」¥950 店主の山口さんは愛知県出身。喫茶文化が育てた生粋の喫茶少女は、どうりで“憩う人の心”をわかっているのです。
「和風ツナオムライス」¥950 店主の山口さんは愛知県出身。喫茶文化が育てた生粋の喫茶少女は、どうりで“憩う人の心”をわかっているのです。
 
吊り下げ電球の蛍ほどのあかりが灯る店内は、日が暮れてしまえばほとんどが浅い暗闇に包まれる。「だって、明るい店内って緊張しませんか」店主の山口さんは笑って言う。『torse』はただそこに座っているだけで、すっぽりと落ち着いてしまう心の食堂。うるおいがあります。
 
テーブル同士の間には思いっきり余裕があって、隣の人の気配は、あるような無いような。のんびりした距離感だから自分勝手に本を読み、考えごとをして、お腹が空いたらごはんを食べる。看板メニューの和風ツナオムライスは、常連さんの愛もひとしお。「ふと食べたくなって来ちゃった」なんて人も多いそう。ぽってりとしたオムライスに甘いケチャップの赤。スプーンをたてればするりと崩れて、半熟卵がライスに絡む。味の決め手は、お醤油とツナ。ただそれだけのシンプルさは、誰が食べてもほころぶ味。「私の味じゃなくって、みんなの味です」。驚くような味わいも疲れてしまう、素朴すぎては元気がでない。そんな時に、気負いがなくて楽しいごはん。例えばそれは『torse』のオムライスのことなんだと思う。
 
駅から10分は歩く。でも、だからこそ「この辺はなんだかとてものどかで、なんにもないのが気に入ったんです」と山口さん。心が伸びをするような帰り道、徒歩は散歩になっていた。

ひらの・さきこ 1991年生まれ。食ブロガー。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。
 
1926-anan-food-shoptorse
東京都世田谷区下馬5-35-5-2F 
☎03・6453・2418 12:00~翌2:00 火曜休 
http://www.torse.jp/


写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子