マガジンワールド


From Editors No. 765 フロム エディターズ

From Editors 1

あんこに込められた「物語」を知ればあんこはもっともっと美味しくなる。



僭越ながら、101人目のあんこラヴァーとして、この特集で出逢ったマイあんこベスト3を。A 〈芳光〉(名古屋)のわらび餅(一番上)。B〈岬屋〉(富ヶ谷)の白小豆水羊羹(真ん中)。C 〈うさぎや〉(夕張)のあんドーナツ(一番下)。Aは撮影で食べたその味が忘れられず、10月初旬に髙島屋で特別予約販売すると聞きすぐに電話をかけたつもりだったが完売…悔やんでも悔やみきれない今年の出来事ナンバー1確定です。

私の初めてのあんこ体験は、おばあちゃんのつくるおはぎ。田舎に行くと、山盛りにつくられたつぶあんとこしあんのおはぎが待っていて。子供の頃は夕食のことなんて気にもせず、動けなくなるまで食べていたことを思い出します。あれからウン十年が経ち、今回、あんこ特集を立ち上げることになってまず考えたのは、できるだけ多くの人に好きなあんこ菓子を聞いてみたいということ。人の数だけあんこの想い出はあるのではないか。そう思い、巻頭の観音6ページにもわたる壮大な“あん”ケートを決行しました。結果は見事なまでにバラバラ。一番票が集まったあんこでも、299票のうちわずか6票。それぞれのあんこにまつわる想い出を読んでいるだけでも、どれもこれも食べてみたくなりました。

もちろん、あんこを食べた時に美味しいと感じるかどうかは大事です。でも、私たちは、あんこに込められた「物語」も楽しんでいるのではないでしょうか。創り手の、あんこ菓子に対する考え方や暖簾の歴史に菓銘の由来、そして食べ手側も、初めて食べたシチュエーションや頂いた相手、その店に対する共感度などを楽しんでいる。豆大福ひとつとってみても、あんこと餅と豆のバランスにはそれぞれの店の哲学が詰まっているし、人に感動を与えるプレゼン力に長けたあんこ菓子や、どのジャンルにも属さない唯一無二のオルタナティヴなあんこ菓子もある。今回の特集では、そんな「物語」を楽しみながら、美味しく食べられるような構成を考えました。

……となんだか小難しい話になっちゃいそうですが、いえいえ、あんこのこと、ただ単に話したいだけなんです! 今回特集のトリを飾る“あん国大統領”糸井重里さんはこう言いました。「あんこは笑う食べ物」だと。あんこには、人を笑顔にさせる力がある。あんこ特集は無事発売になりましたが、私は今日もあんこを食べています。わいわい話しながら…。皆様も、この特集で気になるあんこを見つけて、みんなでシェアしながらわいわい楽しんでください。私たちはもう、あんこ好きであることを隠さない!

●田島 朗(本誌担当編集)


From Editors 2

職人の背中を見て分かったこと。羊羹1本3,800円は、決して高くない。

つぶあんを炊き上げるときに使う“あんかい”。下の白木のものが新品。日々の作業の積み重ねによって、久保さんのあんかいは短くなった。

なんで、この小さな和菓子が350円もするんだろう。
2ヶ月前の私です。たったひと口350円。刹那的な快楽のためにその金額は高い。そう思ってました。

大阪にある〈菊壽堂義信〉を訪れて、考えは大きく変わることになります。風味の良さから和菓子職人が競って使いたがる小豆の稀少品種“備中白小豆”について取材をしたときのことです。決して広いとは言えない場所で、ひとり黙々と羊羹を作る17代目の店主・久保昌也さんの姿がありました。「冬場は大変ですわ」と冷たい水に手をつけて、「夏は夏で大変です」と強火であんを練り上げながら笑います。さらには、中腰で圧搾機を使って“呉(“ご”と読みます。これが何かは「あんこボーイのABC」をチェック!)”の水分を力一杯搾りとる。絞り終えた久保さんの息が弾んでいるのが分かります。その日のうちに羊羹ができあがるのかと思いきや、完成したのは2日後。羊羹1本作り上げるのに、3日を要したのです。

「大豆にこだわることは大事です。でも、もっと大事なことは、焦らずに丁寧に仕事をすること。派手なことはしなくていいんです。やらなくてはいけない仕事を決して面倒に思わず、しっかりと積み重ねていくことが大事です」
作業の手を休めることなく、狭い厨房を行ったり来たりしながら久保さんは話してくれました。備中白小豆を使った“白い羊羹”は、1本3,800円前後。久保さんの労力と時間と愛情が込められた3,800円は高くない。今はそう思います。
(※“白い羊羹”は12月中旬〜1月の限定品。1週間前までに予約が必要です)

●阿部太一(本誌担当編集)