マガジンワールド


From Editors No. 767 フロム エディターズ

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監督の足跡を辿ったら、みんな笑顔でした。

監督の足跡を辿ったら、 みんな笑顔でした。

特集を組むことが決まったある日、小津安二郎の墓参りに行くことにしました。北鎌倉駅前にある円覚寺。入口で「小津監督のお墓はどちらですか?」と聞いたら、受付の女性はニッコリ頷いて慣れた口調で順路を教えてくれました。「墓石に“無”の一文字が刻んでありますので…」。すでに先客の若いカップルがお参りしていました。話しかけると、ヴィム・ヴェンダースの『東京画』を観てからの小津ファンとのこと。15分ほどの立ち話をした後に、隣駅の大船にある写真館を紹介してくれました。

そこは小津組の撮影監督として知られた厚田雄春の娘さんが営む店。早速、アポなしでご挨拶に伺ったにも関わらず、小一時間ほど小津監督や父親について熱心に語ってくれる嬉しい展開。その後、蕎麦屋さん、洋食屋さん、撮影所跡と足早にまわり、気付けばもう昼。写真館の店主のススメもあり、かつての松竹大船撮影所の関係者が通ったという、その名も〈でぶそば〉へ。

注文すべきは「半チャン半ソバ半シュウセット」(1030円)。チャーハン、ラーメン、シューマイがハーフサイズで楽しめる“寅さんセット”は、いまも昔ながらの味。聞けば、ここは山田(洋次)組の出入りが多かったというけれど、それでも小津監督について小一時間は話をしただろうか。どちらかといえばスリム(!)なご主人のご好意で、料理撮影用にミニラーメン用の特注の丼(p36)をお借りすることに。とにかく小津話をしていると、皆が親切に接してくれます。

後日、銀座のバー〈ルパン〉や御徒町のヒレカツ〈蓬萊屋〉など監督の足跡を辿って行く先々で、誰もが饒舌に語ってくれました。今回、現存する37作品全てを観てからというもの、封切り映画を観ても「小津さんなら……」と語ってしまったり、友達の人生相談に、つい小津作品を引き合いに応えてしまう自分がいます。小津映画を観ると、人はなぜか饒舌になるみたいですよ。

●鮎川隆史(本誌担当編集)


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小津安二郎vs37人のあたらしい才能。
ブックインブック『小津映画讀本二◯一三』は、「小津安二郎vsあたらしい才能」以外にも、全37作品のみどころとあらすじも網羅した完全保存版です。
ブックインブック『小津映画讀本二◯一三』は、「小津安二郎vsあたらしい才能」以外にも、全37作品のみどころとあらすじも網羅した完全保存版です。

小津安二郎の映画世界への入り口を紹介する今回の特集(ですので、特集のタイトルが「小津の入り口。」と言います)。テレビドラマ、画作り、料理、おじさん、男と女、笑い、ファション、女優、着物、絵画、観賞後、と目次にズラッと並んだこれらのキーワードが“小津の入り口”となっているわけなのですが、目次では“入り口”顔をしていないブックインブック『小津映画讀本二◯一三』(現存する小津安二郎の全37作品を紹介する豪華40P!)内にも実験的な入り口を準備しております。「小津安二郎vsあたらしい才能」というのがその入り口。

37作品それぞれに、さまざまな分野で活躍中の新しい才能を持つクリエイターが実際に見て、レビューを書くという世代と業種の次元を越えた異種格闘技戦。『戸田家の兄妹』vsおしゃれ系ガールズユニット〈バニラビーンズ〉のレナさん、『早春』vsフォトグラファー小浪次郎さん、『秋刀魚の味』vsファッションブランド〈mame〉のデザイナー黒河内真衣子さんなど、没後50年になる小津安二郎と平均29歳の新しい才能の対戦は好勝負の連続となりました。そして、その対戦からは、創作のヒント、家族の思い出、色使い、街の風景といった37人37通りの“入り口”が姿を現します。そのどれもが、昔の言葉で語られがちな小津評と違い、今の感覚で語られているだけにどれも一歩踏み込みたくなる入り口ばかり。本誌とブックインブックに準備したたくさんの小津の入り口。この特集を読んでもまだ小津安二郎の映画世界に入れない方がいましたら、残念ですが小津映画を楽しむことはもう諦めたほうがいいかも…、そう言い切れる特集となっています。

●伊藤総研(本誌担当編集)