マガジンワールド


From Editors No. 770 フロム エディターズ

From Editors 1

尊敬できる理由はいろいろあっていい。
それは「触って気持ちいい」でも。
1度目の『尊敬できる「日用品」』特集は、昨年の初夏に。「朝、目が覚めてまず一杯の水を飲む。そのコップに何の愛着もないとき、それはただ喉の乾きを潤すだけの最低限の作業にすぎない。けれど、敬意を持つほどに大切なコップだったら、渇きを潤す以上の快楽の時間だといえるだろう」。そんな書き出しで始まった記事を、覚えている人もまだ多いと思います。あれから約半年、季節も秋から冬へと移り変わり、また別の日用品に興味が出てきました。今回の「続編」は、ストーブ、鍋、ルームシューズや靴下、カレンダー……と、この冬から春にかけて大活躍しそうなアイテムを中心に、前回より季節的に「温かさ」を増量した内容でお届けします。

前回同様に、今回も4人の選者(日用品選びのプロ)に登場いただき、28のテーマに合わせた暮らしの道具を紹介してもらいました。スタイリストの岡尾美代子さん、人気ショップ〈1LDK apartments.〉のディレクションを手がける南貴之さん、千駄ヶ谷〈パピエラボ〉の店主・江藤公昭さん、そして代々木上原のレストラン〈フォートグリーン〉の浅本充さんが、今回の選者です。彼らのリストは、全く別の視点で選ばれたり時々カブったり。それぞれの生活観によって、テーマの捉え方に違いが見えるのもとても興味深い。

今回と前回、ボクたちは2冊にわたって日用品の特集をつくりながら、同時に「シンプルで美しい」とか「手入れをしながら長く付き合いたい」とか、尊敬できる日用品の「条件」をたくさん探してきました。その多くはカタチであったりデザイン哲学であったり、使い手との関係であったり。そんなことを岡尾美代子さんと話していた時に、彼女はぽつり、

「触っていて気持ちいい」。

肌に触れた時に尊敬できる日用品。そんな捉え方もあるんだなあ。頭でっかちな自分は、ただただ唸ってしまうばかりでした。

いい日用品が、いい感じのパッケージに入っていると、さらにテンションが上がるよね。これは江藤公昭さんが「尊敬できるルームシューズ」と教えてくれた〈チローテ ハウス シューズ〉のパッケージ。この筒の中に、ウールを編んだシューズがくるっと両足入っている。
いい日用品が、いい感じのパッケージに入っていると、さらにテンションが上がるよね。これは江藤公昭さんが「尊敬できるルームシューズ」と教えてくれた〈チローテ ハウス シューズ〉のパッケージ。この筒の中に、ウールを編んだシューズがくるっと両足入っている。http://www.dreamsupply.jp/chilote.html


●矢作雄介(本誌担当編集)
 

From Editors 2

お正月の実家の台所と
取材相手から教わった、
尊敬できる日用品のこと。
このお正月に実家に帰った時、台所に立って驚いたことがありました。今回の特集で工場取材に行った、野田琺瑯製のコーヒーポットを使っていたのです。

野田琺瑯は、製作工程のすべてを国内で行っている唯一の琺瑯メーカー。ライフスタイルショップの常連であるそのポットを、私はいつもかわいいな、と思って眺めていました。母にいつから使っているのか聞くと、暫く考えた後、「よく覚えてないけど結構前だと思う」。母はその背景を何も知らないのに、いつからか使っていたばかりでなく、かわいくて使い易いから、海外に住む姉にも送ってあげたと。その後暫く私の仕事の話などで盛り上がり、ポットは娘の近況報告の端緒となってくれたのでした。

話は変わりますが、今回、特集前半で4人の選者に選ばれた日用品は、昔からお気に入りで……といったものでも、改めて輸入代理店や各メーカーからお借りして撮影しました。皆さんかなり意識的に購買行動を行っている方々かと思いますが、いつどこで買ったかを思い出せないものも多数。裏を返せば、自然にいいな、と思って購入し、まるでずっと前からそこにあったかのようにしっくりと生活に馴染んでいるということだと思うのです。

また、前述の野田琺瑯の取材中、野田さんに「日本国内で作る意義は?」と聞きますと「何よりもお客様が喜び安心して長くお使い頂けるカタチや品質を追求していき、それを日本の心である几帳面さや丁寧な気持ちで作り続けることと思います」とのお答えが返ってきました。

日用品を揃えるタイミングって、独立や結婚など何かと物入りで、入手し易さや価格の安さで選んでしまいがち。安くても意外に丈夫だし、充分用を足してはくれるから、ずっとそれを使うことになることも多いかと。でも、毎日使う物だからこそ、ちょっと高くても丁寧に作られ、いいな、と思えるものを長きに渡って使い続ける贅沢がある。作り手である野田さん、使い手である4人の選者、その他、取材をさせていただいた皆さんや、手前味噌ながら母からも、そんなことを考えるきっかけを与えて頂きました。

実家で活躍する琺瑯のポット。母が長く長く使った後、私が引き継ぐ所存です。
実家で活躍する琺瑯のポット。母が長く長く使った後、私が引き継ぐ所存です。


●草野裕紀子(本誌担当編集)