マガジンワールド


From Editors No. 771 フロム エディターズ

From Editors 1

無駄な物を集めると、世界が少し楽しくなる。
後輩のとある編集者の部屋には机しかないそうで、私がイメージする「編集者の家」とは随分と違っていて驚いた。ただ隣の席の編集者は先輩だが、机には何もないので世代の問題ではないのかもしれない。私がイメージするところの編集者の机は立花隆さんのようで、いわく ”城壁” のように本や資料が積み上げられ、猫の額ほどの隙間で仕事をする。いまの編集者の家には本棚すらなくなりつつある、そう嘆いてみたら、立花さんが取材を引き受けてくれた。

「本の背(表紙)」が語りかけてくると言い、本がうずたかく積まれた部屋は ”知識人” を目指す人たちのある種の ”憧れ” であった。とくに50代、60代には強く刷り込まれたものがあると思う。本もそれだけ貴重だった。そこからは十数年は開きのある、私たちの世代が読んでいた雑誌に登場する ”カルチャースター” たちは、とにかく物を持っていた。巻頭で取材した高城剛さんは「持つことが正義だった時代」と振り返っていたけれど、物を持っている人は魅力的だったし、物に対する博識ぶりに憧れ、持たないとわからないと思っていたから何でも持とうとした。財布に無理して洋服を買い、新しいガジェットが出たらすぐに試した。本や雑誌も同様に。

コレクターの特集を作りたいと思ったのは、むしろ逆で、私も物を手放したいと思っているからに違いなかった。これといってコレクトしているものもないが、ちょこちょこ買い込んでしまうので家には物がたくさんある。ただ本当に必要な物は何もないので、大げさでなく捨てるならいっそ全部捨てしまいたい。ただ、それでは仕事をする上でどこか心許ないのだ。家にあるこの一見無駄な物や本は手元に置いておくべき価値があるのだろうか?

いまはどこか「無駄」な物が居辛くなってきている。集めること、持つことの理由を上手く説明できないといけない。しかし人が物を集めることにみんなが納得する理由があるなんてことはほとんどない。

知りあいでトイレットペーパーの包装紙を集めている人がいて、それを聞いた時に、物好きだなぁと思ったけれど、その視点があることに少し羨ましくもあった。その後、出張で搭乗した航空機のトイレに、魅力的なトイレットペーパー(の包装紙)があることに気が付き、世界が少しだけ楽しくなった。

立花先生はもちろんコレクターではありません。だけど、『立花隆の書棚』を読んで、今回の特集に出てもらう意味があると思い、特集最後のインタビューをお願いしました。今回、初めてお会いしたのですが、『田中角栄研究』で当時の総理大臣を引きずり下ろした人物とは思えないぐらい温和な人柄。取材は事務所である通称「ネコビル」でやりましたが、近所にある「三丁目の書庫」も自ら案内してくれました。これは結構、珍しいことなんだそう。結局、雑誌ではこの「三丁目の書庫」で撮影した写真が使われています。そういえばジブリの映画『耳をすませば』では主人公・月島雫の父親の声を立花さんがやっていて、アニメの世界には違和感あるその声が妙に耳に残っています。劇中、本がうずたかく積まれた部屋が丹念に描かれていますが、その時代の ”憧れ” が詰まっているような気がします。
立花先生はもちろんコレクターではありません。だけど、『立花隆の書棚』を読んで、今回の特集に出てもらう意味があると思い、特集最後のインタビューをお願いしました。今回、初めてお会いしたのですが、『田中角栄研究』で当時の総理大臣を引きずり下ろした人物とは思えないぐらい温和な人柄。取材は事務所である通称「ネコビル」でやりましたが、近所にある「三丁目の書庫」も自ら案内してくれました。これは結構、珍しいことなんだそう。結局、雑誌ではこの「三丁目の書庫」で撮影した写真が使われています。そういえばジブリの映画『耳をすませば』では主人公・月島雫の父親の声を立花さんがやっていて、アニメの世界には違和感あるその声が妙に耳に残っています。劇中、本がうずたかく積まれた部屋が丹念に描かれていますが、その時代の ”憧れ” が詰まっているような気がします。


●町田雄二(本誌担当編集)
 

From Editors 2

悪徳ブルータス
例えば、ブルータスでミュージシャンに1ページのインタビューをお願いすると、1時間で話を聞き撮影もする、というのが相場である。ヘア&メイクやスタイリングが入る場合は別だが、2ページの対談モノでも2時間はかからない。それが店取材などになると、1日に6、7軒取材することもざらである。基本的にそんなスケジュールで、雑誌はつくられてゆく。

ところが、今回の「THE COLLECTORS 2014」特集は、通常では考えられないスケジュールで取材が行われていった。正確に計算したわけではないけれど、コレクター1人につき、優に3時間はかかっている。

倉庫に山と積まれたペダルカーを一度全部外に出し(オマケにエンジンのかからない本物のクルマまで押し出して)、あらためて倉庫の中にペダルカーを並べ直したり、逆にキレイに棚に整理された2000個以上のゲームソフトを、わざわざバラして床に敷き詰めてみたり……。わずか1カット撮るために、カメラマン、ライター、編集者だけでなく、コレクター本人も一緒になって、黙々とセッティングに精を出すのである。そしていざ撮影となると、今度はコレクターのこだわりやらカメラマンの美意識やらが頭をもたげてきて、なかなかキメの1カットにたどり着かなかったりもする。そりゃあ半日仕事にもなろうというものだ。いやはや。

そうやって撮影した写真には、恐ろしいほどの量の情報が詰まっている。ぜひ1カット1カット、ルーペ片手にご覧いただきたいのだが、但し、そこに詰まっているのはたいていの場合、役に立たない情報ばかりだ……。

効率がよかったり、役に立ったりすることが美徳と考えられている現代において、この特集は圧倒的な手間と無駄の塊、まさに悪徳特集である。でも、マルキ・ド・サドを引くまでもなく、悪徳は甘美な匂いに満ちている。読者のお役に立つことを一義としているブルータスだって、たまにはこんな悪戯をしたくなるのだよ。

レトロゲームのコレクターのロケ風景。撮影スタジオではないので、カメラマンはこんな曲芸のような撮影を敢行したりしているのです。
レトロゲームのコレクターのロケ風景。撮影スタジオではないので、カメラマンはこんな曲芸のような撮影を敢行したりしているのです。


●湯沢和彦(本誌担当編集)