マガジンワールド


From Editors No. 776 フロム エディターズ

From Editors 1

一世一代の旅は、
一粒で三度おいしい。
大学に入ってすぐ、ひたすらバイトをした。塾講師に家庭教師、百貨店催事場の設営撤収、工事現場に深夜のガソリンスタンド。ただでさえ大学まで遠かったのにかけもちで働いてたものだから、いつも眠くてフラフラ、恋愛も長続きせず。そして休みに入ると、稼いだお金で世界中を旅した。ラパスで高山病になってチチカカ湖で倒れたりとか、バラナシで睡眠薬飲まされて襲われたりとか、サハラ砂漠で乗ってきたラクダが帰ってこなかったりとか大変なことだらけだったし、デジカメなんて無い時代だから写真も数えるほどしか残ってないけど、この目で見た景色は今でも脳裏にくっきりと焼き付いている。

いつも心の中には、憧れの旅先があった。

で、卒業してこの仕事をするようになり、学生の時には行けなかった憧れの場所にも辿り着けたのだが、それでもまだ手の届かない場所がひとつだけあって。地球の果て、南極。小学生の頃、地元の映画館で観た「南極物語」が全ての始まり(まあベタですけど)。タロとジロが駆け回る見渡す限りの大雪原を見て、幼心にいつしか絶対に行ってみせると興奮気味に親に語ったことを覚えている。大人になって何度か南極への旅を考えたものの実現には至らなかったが、今年、遂にチャンスが訪れることに。15日間の旅程中、往路5日・南極滞在5日・復路5日という、言ってみれば“効率の悪い”旅。だけど、ドレーク海峡の荒波を乗り越え南極大陸に自分の足で立った時の、足下からぞわぞわと感動が押し寄せてくる感覚は、あの学生の頃とまるで同じだった。ひさしぶりの感覚だった。

旅の最中が楽しいのは当たり前。“一世一代の旅”とは、行く前にどきどき胸躍らせ過ぎちゃうような、行った後に誰彼構わず自慢したくなるような旅だと思う。旅の前も、旅の途中も、旅の後も楽しい、“一粒で三度おいしい”旅。毎年毎年長旅に出られるような貯金も時間もないけれど、いつか訪れるその日を夢見て毎日をわくわく過ごしたほうが、人生は何倍もオモシロイんだもの。

旅の前日、会社のホワイトボードに行き先を書く。もちろん「南極」。嬉しくなっちゃって写真に撮ってしまいました。
旅の前日、会社のホワイトボードに行き先を書く。もちろん「南極」。嬉しくなっちゃって写真に撮ってしまいました。
南極初上陸時のニヤけた写真。iPhoneの待ち受けに期間限定で設定しておいた「南極物語」の健さんと共に。でも南極物語のブリザードな世界とは違って穏やかな天気でした。
南極初上陸時のニヤけた写真。iPhoneの待ち受けに期間限定で設定しておいた「南極物語」の健さんと共に。でも南極物語のブリザードな世界とは違って穏やかな天気でした。


●田島 朗(本誌担当編集)
 

From Editors 2

行きたい!見たい!と
思える場所があるのは、
とても幸せなこと。
共感してもらえるかわからない話ですが。

自分の旅を振り返ると、昔は若さゆえの無謀や無防備によるトラブルも数知れず。落ち込むこともありましたが、それでもやり切れないほどの好奇心に突き動かされて、新しい目的地へ旅立っていました。その後、それなりに積んだ経験値によって、トラブルを回避するスキルも身につき、以前に比べてストレスは減っています。ただその分、旅で得る率直な感動というものも目減りしてきた気がしてならず。絶景と言われる場所に行っても「あぁ、ここは前に行ったどこそこの風景に似ているな」と、経験値が感動の邪魔をするパターン。強烈な感動ばかりが旅の醍醐味ではないですが、何か旅に向かう時の期待感のようなものが、不安感と一緒に薄れてきた気がしてならないのです。

そんな折に、人のブログで目にしたエチオピア・ダナキル砂漠にあるダロール火山の写真。地球にあるの?と 疑いたくなるような極彩色でグロテスクな景観に、最近忘れかけていた感情を揺り起こされました。キモい、怖い、でも行ってみたい。不安と期待。あぁ、これだった! 実際、取材で訪れたダナキル砂漠は、抱いていた不安も期待も超越してハイにさせる場所でした。そのレポートはどうぞ誌面にて。

また、特集冒頭では、50人の方に「一生に一度は行きたい場所」について話を聞いています。まだ見ぬ場所への憧れの思い。実際に行った場所について語るよりも、純粋さを濃く含んでいるような気がして、短いキャプションにも思いが詰まっています。そして、行ってみたい場所、見てみたい風景がある、ということはすごくハッピーだなと気づいた次第。

今回の特集を作って、私自身の「一生に一度は行きたい場所」リストも大幅に追加、更新されました。それこそ自分の一生で足りるのかというほどに。

幸せです。

あと、砂漠で気づいたたもうひとつのこと。電波もWi-Fiもないって生活……ストレスどころか、超ストレスフリーでした。
あと、砂漠で気づいたたもうひとつのこと。電波もWi-Fiもないって生活……ストレスどころか、超ストレスフリーでした。


●中西 剛(本誌担当編集)