マガジンワールド


From Editors No. 164 フロム エディターズ

特集内容

BEST MUSEUMS IN THE WORLD 2013
いま行くべき美術館はどこだ?

今回の「カーサ ブルータス」は、創刊15周年記念の特別保存版となる号。その記念すべき特集は、大好評企画「いま行くべき美術館はどこだ?」です。

日本・海外を問わず、世界中で続々と気になる美術館がオープンしています。そのなかでも特に注目なのが、今号の表紙にもなっている、フランスにできたルーヴル美術館の分館<ルーヴル美術館ランス>です。

世界の強豪をコンペで破り、設計者に選ばれたのは日本人建築家デュオSANAA(妹島和世+西沢立衛)。今回はSANAAの特別インタビューを交え、巻頭でこの美術館を紹介します。

有名建築家の手がけた美術館としては、安藤忠雄、ザハ・ハディッド(2020年の東京五輪のメインスタジアム設計はこの人!)、隈研吾の美術館が登場。

アーティストの手がけた空間・作品としては、横尾忠則の2つの美術館空間をインタビューと共に紹介。杉本博司が内部空間を手掛けた建築&アート好きにはたまらない山梨の新レストランなど登場します。

また、美術館という枠を越えた「究極のアートサイト」も世界から厳選して取材しています。韓国の彫刻公園にできた名和晃平の巨大彫刻、アメフトのスタジアム内のいたるところに設置された無数の現代アート、ヒューストンにある伝説のマーク・ロスコのチャペルなど。

国内外の行くべき美術館&気になるアートサイトを、たくさんご紹介します。


Editor’s Voice

マーク・ロスコのチャペルに秘められた謎。

ph_fromedit01 ph_fromedit02芸術家が手がけたチャペルというと、画家アンリ・マティスが手がけた南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂が有名だが、テキサス州ヒューストンにある抽象画家マーク・ロスコの<ロスコ・チャペル>も忘れてはいけない。

マティスのチャペルが色彩豊かで光に満ちた「陽」の空間とするならば、ここは「陰」とでもいうべき空間だ。

礼拝堂内部は八角形をしていて、八面ある壁のうち入口に近い壁以外には、ロスコによる漆黒の巨大絵画がかけられている。この絵にはロスコのオレンジや赤といった、あの美しい色彩はない。チャペルの椅子に腰かけ、この絵画をじっとみつめていると、絵画と自分との距離感がわからなくなり黒い鏡に吸い込まれるような錯覚を起こす。真っ黒の絵画が目の前に迫り、自分の内面にその黒いものが侵入してくる感覚だ。同時に、自分の内面の奥深くを覗いているような・・・それは見てはいけない、自分自身の中の何かを見る行為に近いのかもしれない。

その不思議な体験をさせるのは絵画のせいだけではない。建物にも秘密が隠されているのだ。ロスコはこの建物について多くを語らなかった(なんといってもこの建物の完成の1年前に突如、ロスコ自身が自らの命を絶ってしまったのだ・・・)。

しかし空間にじっと身を置いてみると、屋根に開けられたトップライトから淡い光が注ぎ、八角形の空間に充満した後、その光は、唯一ほんのわずかだけ色彩のある入口近くの絵画の中へと吸い込まれていくのが感じられる。

マティスのロザリオ礼拝堂はカトリック信徒の祈りの場として構想された。この<ロスコ・チャペル>は、宗教・宗派を問わず世界のあらゆる宗教が祈りを捧げる場としてつくられた。だからなのか、人格神を越えた壮大な「宇宙」にふれたような感覚を覚える。

それは、本当に「宇宙」なのか? それとも自分自身の内面世界なのか?
あなたも、ぜひこの場に身を置き、祈り、「何か」を体験することをお勧めしたい。

特集担当編集/白井良邦