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FEATURE WHAT’S FASHION PHOTOGRAPHY?

FEATURE

写真家 奥山由之 × スタイリスト 近田まりこ × GINZA編集長 中島

WHAT’S FASHION PHOTOGRAPHY?

 

「写っていないけれど、
たしかにあるもの。
それがないと、その写真を
深く思う瞬間は来ないと思う」

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近田まりこ

この先輩に憧れてスタイリストになった人は数知れず。本誌連載「One&Only スペシャルを探せ!」の文章の鋭さと深さは必読です。


「写真の中の洋服が
見る人に
イマジネーションをくれるとき、
その洋服は生きている」

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中島敏子

新しいこと、ヘンテコなことにしか興味のないパンクなへなちょこ。その無茶ぶりに屍になった編集部員は数知れず。


「説明がつかないけれど、
心を揺さぶられる。
最後に残るのはそういう
写真だと思うんです」

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奥山由之



 

中島敏子(以下、中島) そもそも、なぜファッション写真に興味を?

奥山由之(以下、奥山) 大学生のときに図書館でピーター・リンドバーグが撮ったコム デ ギャルソンの写真(右下)を目にしたんです。まるで映画のセットみたいな巨大な車輪とともにモデルさんが写っていて。「これがファッション写真なのか…」ってその表現の強さに心を揺さぶられて。

中島 確かに奥山さんの写真はシチュエーションも小道具もぶっとんだものが多いよね(笑)。「ファッション写真」という話になると、通常は服が先にあって、それを伝えるために写真をどう撮るか、往々にして服に写真が従属せざるをえないときが多いのだけど、今回はいつもと逆で、先に撮りたい場所や人やアイデアが奥山さんの中にあって、それに対してスタイリストが服や服の見せ方を考えてもってきてくれる、というやり方でしたね。服ファーストじゃなくて写真ファースト。

近田まりこ(以下、近田) それはそれであり、だと思う。〝服〟ではなく、〝写真〟という形態で人の目に触れるわけだから、まずは写真として力をもつということが重要なわけで。私は「何かが写っている」だけの写真には心がひかれなくて、見えないものや言語化できない何かを内包している写真と出逢いたい。写っているものも写っていないものも含めて自分の中に入ってくるような…。強い写真ってそういう何かを宿している。

奥山 見えるもの/見えないものという話だと、たとえば撮影をしていて、「あ、今のこれ、何かいい感じだな」という何となくの雰囲気では撮れないケースもある。商品ロゴが見えてないとか、誰だかわからないとか、引き寄りの問題も含めて、クリアしなければならない点がいくつかあって、でもそれを気にしているうちに、感情の高揚を逃してしまう。可視化できたり言語化できる、いわゆる〝情報〟を画に取り込もうとしている間に、「あ! 今だ!」という写真として一番重要な感情の起伏が失われて、気付けば誰の心にも刺さらない、ただの情報画像になってしまう。だからこそ、写真を撮るならば、説明のつかない見えないものを捉えようとしないと、受け取る人の感情にも届かないと思うんです。

中島 いい写真の中に映っている服は生命力を放っているし、見る人にイマジネーションをくれる。けれど、ただ、「服をきちんとはっきり撮りました」という写真の中の服は何の魅力もない物体でしかなかったりするよね。

奥山 結局、人が感動するものって、説明のつかない物事なんだと思う。何だかわからないけど好きだ、っていうのが結局一番強い。

近田 わかりやすいものは大体ダメ。あはは。わかりやすさの快感は否定はしないけど、人の心に深く、強く残るのはわかりにくいものだと思う。

中島 ほんとにそう! 今の世の中、右を見ても左を見ても、わかりやすいものばかりに軍配を上げてしまっていて、わかりにくいものの居場所が本当にない。GINZAとか(笑)。もう日々、「わかりやすさ」を求めるマジョリティとの戦い。ほぼ負け戦だけど(笑)。

奥山 抽象的な話になってしまいますが、赤と白があったときに、赤から白への変化の過程を捉えるのが〝表現〟だと思うんです。映画とかそうですよね。でもたとえば、広告は人に見てもらえる時間が限られているから、過程というよりも赤だったら赤の一点に絞って、「これってこんだけ赤いんですよ!」っていうことをいかにわかりやすく、強く伝えるか、という勝負になってきてしまう。でも、人って、赤が白に変わる瞬間みたいな変化やうねりに触れたときに感情を揺さぶられると思うんです。人間の感情の波に似たようなものに。つまり、一見わかりにくかったり、構造が重層的だったりするものにひかれる。そういう写真を残していけたら、といつも思って撮ってます。

近田 プロセスがある、っていいよね。雑誌のファッション写真って、最初はゴールどころか、折り返し地点も見えていないところから出発する。

奥山 過程は常に暗がりだし、不安だらけですよね。近田さんと撮影した、01の写真のネガを連続で並べて見せる、というのも最初に見せ方のアイデアだけがあって、どんなものを撮るかは二転三転して、しまいにはこのネタやめようか、なんて話にもなったりして…。撮影当日の朝も不確定要素が多くて、でも粘りに粘って、3分の1くらい撮影してきたところでゴールが見えてきて、最終的な仕上がりは最初に考えていたことよりも、ぐっと遠く、高く、跳躍した写真になった。

中島 雑誌のファッション撮影はそうした現場でのひらめきや偶然を大切にしていて、時には大胆にチェンジしたりできるのがいいところだよね。アドリブ歓迎!みたいな。

奥山 04の広瀬すずさんを撮影したとき、夜の公園でサッカーボールを蹴り合いながら撮影したんです。僕はカメラを構えながら足ではボールを蹴って。で、夢中でボールを追いかけているうちに、「写真をどう撮るか」「服をどう見せるか」みたいな冷静な考えが飛んでいってしまって。もう「服と写真」じゃなくて、「人と人」の話になっていて。仕上がった何枚かの写真を見たときに、すごく純度の高さを感じたんです。計画性では作れない、瞬間ならではの写真らしさが写っている気がして。ただもちろん、今回の特集は、綿密な打ち合わせを重ねて構築していった写真もあれば、そのときの感情で撮った写真もあるので、同じ〝写真〟なのにプロセスがまるで違って面白いな、と。

中島 どっちもありだと思うけどね。人と人との強さが服を超えていく、というのは真実で、洋服と写真と人間の3つの要素の中では人間が一番強い。だから、服より生身の人間が前に出ることもある。でも、それも一つのファッション写真だと思う。

近田 奥山さんの写真は、書でいうと、草書体みたい。なんか読みづらいけれど、なぜかひかれて、読み解く面白さ。普段は6ページや8ページで一つのストーリーを見せるけど、終わった時点で見る側はいったんリセットされるのね。でも今回は1ページごとにどんどん世界が変わっていく中で、すべての写真がレイヤーのように重なって一つの壮大なストーリーになっていくような感覚と快感がある。

中島 こうやって見ると、一見わからない写真もあるけどね(笑)。簡単に「いいね!」ですまされたくない、わかられてたまるか、という奥深さと情報量が奥山さんの写真にはある。まあ、端的に言うと、濃い。見る方もヘトヘトですよ(笑)。まさかの74テーマ。

奥山 普段の僕なら使わない書体もいろいろ使いました(笑)。ファッション写真はもっといろんな形があっていいし、もっと自由でいいんじゃないか、ということが見せたかったんです。

中島 いや、十分伝わったでしょ。写真多すぎて、急遽増ページもしたし。

奥山 す、すいませんっ。

 

今回、奥山さんが撮り下ろした写真約40点が原宿・VACANTで展示されます!

12月23・24日の2日間、イベントスペース「VACANT」で『NEW FASHION PHOTOGRAPHY』展と題して今回の写真を展示します。大きなサイズで見る写真の魅力はまた格別。会場では左ページの〈写ルンです〉GINZA限定モデルと奥山さんの写真をプリントしたオリジナルTシャツを販売。
www.vacant.vc 協賛: FUJI FILM

Photo: Jun Kato
Photo: Jun Kato

1988年、巨匠ピーター・リンドバーグが手がけた、コム デ ギャルソンのヴィジュアル。ファッション写真の自由さに感銘を受けた。


 

さらに2016年1月には「PARCO MUSEUM」で奥山さんの写真展が開催。
同時に写真集もリリース

奥山由之写真展『BACON ICE CREAM』
2016年1月22日(金)〜2月7日(日)10:00〜21:00 
会場: PARCO MUSEUM(渋谷パルコ PART1・3F) 
入場料: 一般 ¥500/学生¥400(税込み)/小学生以下無料 主催: パルコ

写真集『BACON ICE CREAM』(PARCO出版)
240ページ/サイズ B5判 予価: ¥2,800 
2016年1月末発売予定