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ブスの瞳に恋してる♥ 第125回「『今』にありがとう」

イラスト・ヤマザキマリ
イラスト・ヤマザキマリ


2015年10月、放送作家仲間のある方が亡くなった。あえてAさんとさせていただくが、Aさんは僕より二つ上の45歳。僕が19歳でこの業界に入り、22歳の時、「とぶくすりZ」という番組で出会った。

放送作家というバラエティーのいろんな企画を出す仕事で、僕じゃなきゃいけないという仕事ってなかなか少ない。ある番組を作るうえで、この人じゃなきゃいけない! と仕事を依頼される放送作家さんは実は少ないと思うが、Aさんは代わりのいない人だった。コントを書かせても天才的で、絶対僕が思いつかない設定なんかを書いてきた。ひらめき型のアイデアと努力で考えられるアイデアがあるとするならば、Aさんはひらめき型。このAさんがいたおかげで、その人に嫉妬し、嫉妬を抜けて僕は努力で行くようにしようと強く思えるようになった。

大学を途中でやめた僕にとって、「とぶくすり」の会議で毎週20時間近く一緒に朝まで会議をしていたAさんは、戦友であり仲間。

そんなAさんは20代前半に脳腫瘍で倒れ、手術をした。その時に看護師だった女性と知り合い、結婚して二人のお子さんを授かった。手術をして治ったはずの脳腫瘍だったが、数年に一回、会議中に倒れ、運ばれたこともあった。そして昨年、再び脳腫瘍になり、今年の10月に亡くなられた。

番組のスタッフにAさんが再び病気になり、長くないかも……ということを聞いた。その時はもちろんショックだった。が、いきなりシャワーを浴びている時にAさんの顔が浮かんで涙が溢れた。そんな気持ちになったのは初めてだった。

亡くなられる一か月ほど前、お見舞いに行くことが出来た。Aさんのことを作家デビューした時から面倒見ていた番組の監督さんは、入院してから何度も病院を訪れて、奥さんの思いもあったようだが、とにかく笑いの絶えない病室に「演出」していた。

僕が病室に行った時は、Aさんは寝ていたため話すことが出来なかったが、ほかの人が行った時は起きていても、何を会話しているのかわからない状態だった時もあったそうだ。普通の感覚で考えたら「悲しい状況」である。だけど、その番組の監督は、そんなAさんをイジり、おもしろく、お見舞いに来た人も笑顔でいられる、そんな病室になっていた。なにより、奥さんがそれを希望していたのであろうから。元看護師の奥さんは、非常に強い気持ちで寄り添っていた。

奥さんは、僕が「いらないだろうな」と思ってわざと持っていったおみやげも、見て二秒で即座に「いりません」とおもしろく返す。亡くなっていくだろう旦那さんの横でおもしろく会話する。その奥さんの態度でみんな笑う。

放送作家の妻として、そして大きな病と闘っている夫の妻として、最高の奥さんだった。強くたくましくおもしろい。

それからしばらくたってある夜。スタッフさんから連絡があった。Aさんが危篤になったと。

深夜1時半、僕は病院に着いた。その監督さんと、スタッフの人、先輩作家さん、5人いた。

僕が着いたころには危篤状態がちょっと落ち着いたとのことで、挨拶だけして帰ることにした。部屋で寝ているAさんに挨拶して帰ろうとした時に、奥さんは部屋にいた監督と僕を見て言った。「主人は楽しい人生だったと思います」と。放送作家として、おもしろいことを考えるのが仕事の旦那さんの人生。45年。短い。だけど「楽しい人生だった」と、意識のないであろう旦那さんの横で言って、頭を深々と下げる奥さん。Aさんが聞いていたら笑って「いいね」と言ってくれたはずだ。

それから一時間ほどたって、Aさんは亡くなった。

告別式の喪主の挨拶で奥さんは言った。夫は病を憎んでなかったと。病になったおかげで、自分と子供と出会えたと。だから憎んでないと言っていたと。

僕は父親になってから人の死に向き合ったのは初めてだった。Aさんの人生を見ていて、本当に思う。「人生何があるかわからない」と。

だけど、本当だったら病気を恨んで生きるはずなのに、そこに感謝する。出会えたことに感謝する。そう言いきったAさんの目線は、他の人の目線とは違い、最後まで放送作家らしい目線で、誰かを笑顔にするものを作る放送作家という、前向きな目線。

僕だって妻だって、明日何が起きるかわからない。だけど、もし自分がそうなった時に、妻が心から僕の友達に、涙と鼻水を垂らしながらでいいから、「主人は幸せな人生だったと思います」と、Aさんの奥さんのように、心から本気で言えるような、そんな人生を生きたいと本当に思った。後悔のないように。

告別式から帰ってきた僕は妻と息子を抱きしめた。今にありがとう。

そして、Aさん、ありがとう。またいつか、おもしろいことを一緒にクタクタになるまで考えましょう。


 
今回の格言
あらためて思う。人生いつ何が起きるかわからない。
単行本『妊活ダイアリー From ブス恋』、大好評発売中。鈴木おさむさんのところには、妊活に関する取材が殺到しています。既刊『ブスの瞳に恋してる』シリーズ(1~4)も合わせてお楽しみください。



鈴木おさむ
放送作家。妻・大島美幸(森三中)の妊活休業から出産までを、詳細につづった単行本『妊活ダイアリー From ブス恋』が人気。現在、初監督作(脚本も担当)となる映画『ラブ×ドック』の撮影中!