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ブスの瞳に恋してる♥ 第126回「しじみがとっても難しい」

イラスト・ヤマザキマリ
イラスト・ヤマザキマリ


息子、笑福が生まれ、僕は仕事を減らし、父勉と題して育児に向き合うようになり、そんな生活も5か月ほどたったある日のこと。

家にいる時間も増えて、妻と一緒にいる時間も増えるわけです。料理の担当は僕がやることになり、超キレイ好きな妻は、僕が料理した後に片付け担当。僕が片付けまでやると、二度手間になるから、片づけはやらなくていいと言いました。

最初の頃は、僕の料理後、妻は片付けながらも相当イライラしている気配が窺えました。

もちろん沢山注意を受けます。注意を受けていく中で、僕も勉強をしていき、初期の頃よりは、妻のキッチンルールを覚えたんじゃないかと思っています。でも、そもそも超キレイ好きな妻とズボラな僕。僕なりに綺麗にしたといっても、妻の満足度が100だとしたら、30にも届いてないと思います。

そんなある日、買い物に行き、塩昆布を買ってきました。レタスやキャベツに一振りするだけでおいしいサラダになるからです。自分も毎日料理を作るようになり、とにかく味のバリエーションが増えるようにと、今まで気にならなかった食材もチェックするようになり、その一個が塩昆布。妻も塩昆布が好きだと言っていたし。塩昆布は常温でいいのですが、僕は買ってきた後に、冷蔵庫に入れました。売ってる時から常温で売っていたので、大丈夫だとは思ったのですが、僕は勝手に冷蔵庫は絶対!! 神話を持っていますので、なんとなく冷蔵庫に入れたのです。すると1時間ほどして冷蔵庫を開けた妻が「塩昆布は冷蔵庫じゃなくていいんだよ。常温で売ってたでしょ?」と言いました。妻は怒ってるつもりもなく、通常の温度で言ってるつもりでしたが、日々一緒にいるようになり、注意される回数も増えてくると、その言葉一つ一つに過敏に反応してしまう自分がいます。

その翌日、離乳食用のおかゆ作り。キッチンで火にかけて、妻は外に出なければいけない用がありました。妻は「いい感じのおかゆになるまで、多分あと1時間くらいはかかると思う」と言いました。そして出ていきました。

僕は1時間かかるんだと思って完全に油断。40分くらいたった時に、念のためと思って蓋を開けたら。ほぼお湯がない状態になっていました。ちょっと焦げ目も出ちゃってる。

そして帰宅した妻がおかゆを見て怒りました。「もっと早く止めてよ」と。僕は「1時間はかかるって言ったよね?」と反論。妻は「言ったけど、ちょいちょいチェックしてよって言ったでしょ?」とかなりガッカリした様子。僕は「ごめんね」とだけ言いました。心の中では納得してませんでしたが。

その日の夜。一緒に出掛けたので、帰りにスーパーに寄りました。妻はしじみが大好き。うまそうなしじみが海鮮コーナーに売ってたので買うことに。店員さんは「30分くらい砂抜きしてください」と言いました。その時に妻は「しじみって冷凍するとうまいんだよ」と呟くと、店員さんは「そうなんですよ。冷凍するとうまみが増すんですよ」と言いました。

僕はその言葉だけが頭に刺さりました。「まず冷凍!」と。砂抜きしてから冷凍するものだという大常識を知らなかったのです。冷凍してからでも砂抜き出来るんじゃないかと。

帰って冷凍する僕。翌朝、妻が冷凍されているしじみを見つけて「あれ? 砂抜きした?」と言ったので「してないよ」と言うと、妻から大きなため息。「なんで? 砂抜きしてから冷凍しないと!!」と。かなり怒ってる口調。「あ、そうなの? 知らなかった」と返すと妻は、塩昆布とか、おかゆとかほぼ一日の中でミスが多かったので「わからなかったら調べなよ」と強く言いました。僕の中でもたまってたものがあって、「いや、わからなかったわけじゃないし。知らなかったし。だったら一個一個指示出してよ」と強い口調で言ってしまいました。自分なりに頑張っている思いをもっと認めてくれよ! という気持ち。妻はそんな僕を見て「ごめん」と言いました…と言いたいところですが、妻は僕にさらにキレました。「私だってもっと我慢してることあるんだから」と。怒り、そして泣いてしまいました。

その時は僕も謝らず。しかし、ちょっと考えてみた。僕は出産前に、周りの女性たちに言われました。出産後、奥さんがどれだけイライラしても流さなきゃダメだよ! と。産後鬱になった女性の話も聞きました。そういう女性と比べたら、妻のイライラとか僕への文句は少ない方だと。僕が手伝っていることはあるとはいえ、息子とずっと向き合っているのは妻で、僕が家にいることが増えたことで、スタイルも変わり、ただでさえイライラが増えるはずなのに、我慢させてしまっていたのだ。

そんなことに気づき。僕は何やってんだと反省。妻に謝罪。妻も自分が悪かったと謝ってくれました。許してくれた。

が、その数週間後、妻は雑誌でエッセイを書いていまして、それを僕に読んでほしいと送ってきました。そこには、そのしじみ事件を発端として、なんと僕に我慢していた怒りが羅列してありました。全然許してくれてなかったみたい!! でも、書いてスッキリしたとか。

僕も日々生活していく中でもうちょい「確認」することを覚えようと胸に刻む。43歳になって、そういう人間の根本の部分を変えていくって難しいけど、でも、変えなきゃならない。

43歳。日常生活で、もっといろんなこと「確認」します。


 
今回の格言
家族が増えたら今までのプライドを捨てて、変えなきゃいけないこともある。
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鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!