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ブスの瞳に恋してる♥ 第129回「一気に深まるふたりの関係」

イラスト・ヤマザキマリ
イラスト・ヤマザキマリ


妊活休業に入ってから1年7カ月、産後半年で芸人としての仕事復帰を決めた妻。しかも最初の仕事は「イッテQ!」のロケ。オーストラリアに5日間行くというお仕事。悩んだ結果、夫婦で話し合い、行くことにした妻だが、遠距離恋愛の駅のホームでお別れする女性のように号泣しながらも、空港に向かうバスに乗り込んだ。ここから5日間、僕は妻のお母さんと二人で息子の育児をすることになるのだ。

一日目。妻を出発するバスまで送り、家に帰ってくる。待っていた妻のお母さんに「いや〜、笑福は笑顔だったのに、お母さんの方が泣いちゃって」と言うと、「もう、何やってんだか」と笑うお母さん。正直、妻がいない5日間、不安だが、お母さんがいてくれることがなによりも安心材料。

息子は母親がこれから5日間いないことをどのくらい理解しているのだろうか? 初日となったその日の昼から夜までは、ほぼ泣くこともなく、過ごしてくれた。ミルクもご機嫌に飲んでくれる。いい感じ。そして問題の夜だ。夜泣かないで寝てくれるか? 大丈夫なのか? それが僕とお母さんの一番の心配点だった。お風呂に入れたあと、初日の夜はとりあえず、お母さんが息子と一緒に寝てくれることになった。僕とお母さんの心配をよそに、息子は思ったよりも早く寝てくれた。朝になるまで二回だけミルクで起きたが、ぐずることもなく寝てくれる。なんて出来た子なんだろう。やはり行く前に妻が出発する日と戻ってくる日をカレンダーを見ながら教えた結果、理解してくれたのだろうか。

二日目。この日、昼くらいからなんとなく、寂しそうな顔を何度か見せるようになった。僕とお母さんで、いつもだったら笑いだす仕草や歌などを歌ってみるが、なんかテンションが低い。もしかしたら「あれ? 一日我慢してみたけど、お母さん、どうしたんだ?」と思い始めたのか? 妻の妹も心配してやってきてくれる。妻の妹を見て、自分のお母さんに感じる安心感を感じてくれないかとも思ったが、あまり変わらず。

なんとなくテンションが低いまま夜になった。が、ここから一気に息子の気持ちが爆発する。

夜寝る前にミルクをあげて、寝た……と思ったら、顔をあげて左右を見まわす。そう、その様子、何かを探している。何を探しているのだろうと最初は思った。が、すぐに気づく。「お母さんだ」と。そう、妻を探しているのだ。妻のお母さんが「ここからは大丈夫よ」と前の日と同じ作戦で、寝かせようと思ったのだが、ここから大号泣。お母さんが気を遣って「おさむ君、大丈夫だよ。私寝かせるから」と言ってくれたのだが。

最初は通常の泣きくらいだった。子供の泣きにも種類がある。まるで信号のようだと僕は思うのだが、青信号の泣きと黄色信号の泣き、そして赤信号の泣き。息子の泣き声は最初は青信号だったのだが、黄色を超えて赤信号。泣くというよりも叫ぶという状況に近いのか。体の中にある魂をすべて使って叫んでいる。

もうここまで来たら寝かすのは大変だ。「今夜は徹夜だな」と覚悟し、お母さんに「僕がやってみます」と言って息子を受け取った。スリング教室で習った「まぁるい抱っこ」で息子を抱きかかえると、1分ほどして泣きは止まった。秘儀「まぁるい抱っこ」をしたまま部屋の中を歩いてみる。歌を口ずさみながら歩いてみる。すると15分ほどして寝てくれたのだ。ただここからが問題だ。お母さんあるある、「背中スイッチ」が発動すると子供は泣く。抱いてると寝ているのに、ベッドなどに置いた瞬間に泣きだす。まるで背中のスイッチを押したように。

僕の場合、息子は抱っこしたままだとよく寝てくれる癖はついていた。正直抱っこしながら寝かせるのは得意。僕の体とのフィーリングはいいみたいだ。なんか、モテる男が抱いた女性との体の相性を語ってるみたいだが、息子とのことだ。だけど、ベッドなどに置くと泣きだすので、いつも僕は息子を抱いたまま、僕も横になる。すると、そのまま1時間は寝てくれることが多い。僕もそのままちょっとは寝ることは出来る。

今夜はこのまま寝るしかないと覚悟した。息子が寝ること1時間。いつもと違って起きそうな様子はない。試しにベッドに置いてみることにした。この瞬間の気持ち、ママさんたちなら分かってくれるだろう。寝ている子供をゆっくりとベッドに置く瞬間。まるでミッション:インポッシブルで、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが爆弾を解体するかのような瞬間だ。ゆっくりと置く。爆発するか? するか? しなかった。

そのまま息子は寝息をたてて寝てくれた。妻がいない状況で、僕は初めて息子をベッドで寝かすことに成功した。妻はほぼ毎日添い乳しながら子供を寝かせている。泣きだしてもおっぱいを吸わせると母乳を飲みだし、そのまま寝てくれる。だけど残念ながら僕にはおっぱいがない。自分におっぱいがあれば、母乳を出すことが出来ればと何度も本気で思った。神様お願い。翼はいらないからおっぱいはくださいと願いたかった。が、ないものはない。だから夜寝かせることは困難だと思ったのだが、妻がロケに出ている間、一番愚図ったこの日、ベッドで長時間寝かせることが出来た。そしてこれは父親としての大きな自信となった。

この夜があけて朝になると。息子に笑顔が戻っていた。二日目のような憂鬱さはなかった。

ベッドで起きた笑福が僕を見て笑う。なんだかその笑顔を見て泣きそうになった。

妻がいないからこそ、ちょっとした荒療治で、僕と息子の関係はより深くなった気がする。


 
今回の気づき

父親には母乳を飲ませることが出来ない。だからこそ父親はもっと頑張らなければならない。
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鈴木おさむ
放送作家。妻・大島美幸(森三中)の妊活休業から出産までを、詳細につづった単行本『妊活ダイアリー From ブス恋』が大人気。夫婦ふたりで仕事と育児をこなす。既刊『ブスの瞳に恋してる』シリーズ1〜4。