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| クウネル編集部の黒一点、岡本仁です。クウネルにやってきて、あっという間に月日が過ぎ、気がついたら、周囲から「あんこさん」と呼ばれるようになっていました。しかし人生はあんこのように甘いだけではありませんね。苦さもあればしょっぱさもあるんですよねー。そこで心機一転、これからは甘さ以外の味についても書いていこうと思います。 |
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| 第8回 |
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さよならと外食 |
ゴールデンウィーク中、久しぶりに、鎌倉駅近くの踏切り脇にある店で晩飯を食べようと思い、古道具屋の先の角を曲がったところで、いつもと様子がちょっと違うことに気づいた。看板が出ていないのだ。嫌な予感がする。先に進んでいくと、案の定、店のシャッターが閉まっていて、どう見ても「臨時休業」という感じではない。仕方なく、家に戻り自分で作ることにした。後になって友人に聞いたところによると、去年の12月に商売をたたんでしまったのだそうだ。
編集部の近所に、よく行くカレー屋があった。カウンターに六〜七席しかない小さなところで、昼時はいつも店の横に長い行列ができている。並んででも食べたい味だったから、列の後ろについて、ガラス越しにカレーを食べる客の背中を眺めながら順番を待った(早く食べ終えろよーと念力も送っていましたけど)。去年の秋だったか、四つ角にあるその店に、いつもとは違う方向、入口ではなく、行列ができる通りのほうから近づくと、珍しいことに誰も並んでいない。これはラッキーと小躍りしながらドアを押した。空いた席に着いて顔をあげると、カウンターの向こうに立っているのは見知った従業員ではなかった。新人なのかなと思ったけれど、よく見ると他の従業員も皆、はじめて見る顔だ。服装も違う。あわてて目の前に立て掛けてあるメニューを確かめる。そしてようやく理解した。知らない間に、居抜きで違うカレー屋になっていたのである。
外食野郎にとって何がいちばん悲しいかといえば、好きな店がなくなってしまうことだ。しかも、たいがいは突然に。知っていればもっと足繁く通ったのにと、悔やむことは多い。
今年の春、家の近くにある喫茶店が閉店するらしいと友人が教えてくれて、あわてて駆けつけてみたら、たしかに月末を持って営業を終了しますという貼り紙がしてあった。25年近く通っている店である。それからの三週間、ヒマを見つけては顔を出しコーヒーを飲んだ。閉店日が迫ってくるにつけ、やりきれない気持ちがどんどん増してくる。それは他の常連たちも一緒らしい。顔を見知っているだけで、軽い会釈くらいはしても言葉を交わすことなどなかった人たちと、ぽつりぽつりと会話するようになった。とはいえ、「この店がなくなったら寂しくなるね」とか、さらに切なさがつのる内容ばかりだ。最終日、午後早くに顔を出してコーヒーを飲み干すと、マスターにちょっとだけお礼を言ってそそくさと店を出た。夜になり、まだやっている時間だから行こうかなと思ったものの、昔話をしたりさよならを言ったりするのが嫌で、結局は家でじっとしていた。
あらかじめわかっている閉店は、突然の閉店よりも悲しいかもしれない。
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