マガジンワールド

第36回 パンパカパーン!


コロポックルの小屋

koropokkur

クウネル編集部の塚越です。人より多少サイズが小さいため、コロポックル系に属しています。目線も若干低いので、世界が広く見えて仕方ありません。ここでは、そんな重心低めな目線で見た毎日をお伝えしたいと思います。

 

第36回
パンパカパーン!

このたび、新しい自転車を購入いたしました。そこそこ長くなってきた人生で、もう何度も買い替えているのに、これまでのどの自転車にも増して、歓びが大きい。年を取ってから授かった子どもはかわいいと聞きます。その気持ちがわからないでもないうれしさなのです。

新たな自転車は、わさび色のスポーツバイク。「身長145cm前後の女性でも、無理なく快適ライド」が、チャームポイント。平均的な身長の方には想像がつかないかもしれませんが、コロポックルサイズとなりますと、自転車選びもひと苦労です。スポーツバイクなんてちょっとすましたものを選ぼうものなら、なおさらです。脚がね、なんてったって短いですから。マンチカン(猫の一種)並みのバランスの悪さですから。小さなサイズを選んでも、サドルにまたがると、まず足が届かない。プリマのごとく目一杯つま先立っても、地表はまだまだその先です。ですから停車する時は、飛び降りるような格好になります。その時、ややもすると、サドル前のフレーム部分につんのめり、あられもない場所をしたたか打ちつけることになります。女子の大惨事です。

ところがこの新車。私の極太マッキーのような短い脚でも、地面に難なく届きます。信号待ちでも交差点でも、ブレーキをかければキュッと停まる。ああ、なんてスマート! 乗り心地ももちろん最高です。ペダルを踏むごと加速され、すいーすいーっと前に進む。ママチャリにはない、なめらかですべるような疾走感。いくら漕いでも疲れません。“風を切る”とはこういうことか、“風景が流れる”とはこういうことか。車上で体感する新しい発見に、内なる“わくわくメーター”の針がぐんぐん上がっていくのを実感します。これに乗りさえすれば、どこにでも行ける。電車とバスを乗り継がないと行けなかった大好きな銭湯にも、学生時代に通った街道沿いの喫茶店へも、私が生まれた小さな家があった場所へも……。例えるなら、ロールプレイングゲームで、“新しい武器”を手に入れた時のような誇らしさ、頼もしさ。「パンパカパーン!」のファンファーレとともに、自転車の鍵を高く天に掲げたい気分なのです。

どんなにささやかなものでも、新しい道具を手に入れるたびに胸を躍らせ、またひとつ未来の扉が開くような気がしていた子ども時代。あの頃の感覚を、いままた感じることが出来たことに、小さく驚き、大きな歓びを得たのでした。
まだまだ世界には楽しいことがありますなあ。次は一体なにかしら? そんなことを思いながら、自転車で乗りつけた銭湯の露天風呂から、うろこ雲が広がる高い空をうっとり仰ぎ見る8月です。