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第3回 渡辺京二さんの「生きづらい世を生きる」。


フナヤマの言葉さがし

初めまして、船山と申します。一読者として愛読してきた『クウネル』編集部で働くことになりました。かなり年のいった新人ですが、みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。当コラムでは私が『クウネル』の取材の席で聞いたり、本や雑誌、新聞で読んだりした言葉、忘れられない文章やひと言をぼちぼちと紹介していければいいな、と思っています。

 

第3回
渡辺京二さんの「生きづらい世を生きる」。

渡辺京二さんという83歳の歴史家がいます。幕末から明治にかけて訪日した外国人の目線を通して、当時の日本社会の姿を描いた『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)という本の著者。地味ながらロングセラーとして着実に売れ続けている本です。渡辺さんは熊本県に拠点を置いて執筆活動を続け、また、病と闘いながら水俣病をテーマに作家活動を続ける、同県出身の石牟礼道子さんを支えてきました。

そんな渡辺さんが日本社会の息苦しさ、お金と時間に振り回されている現代日本人の生き方について受けているインタビュー(朝日新聞2013年8月23日)を読みました。私の周囲でも「あれ読んだ?」「面白かった」と話題になった記事です。

効率主義、成果主義に翻弄される現代の日本人。多くのものごとはお金の力で解決できる、「合理的に働き、合理的に稼ぎ、合理的にモノを買って遊ぶ」ことが正しいと思われている社会。その中で、人が生きていくうえで大事なことは何だと考えていますか、という記者の質問に渡辺さんはこう答えています。

「どんな女に出会ったか、どんな友に出会ったか、どんな仲間とメシを食ってきたか。これが一番です。そこでどんな関係を構築できるか。自分が何を得て、どんな人間になっていけるか。そこに人間の一生の意味、生の実質がある。」

とっても強く気持ちをつかまれました。

経済的繁栄とか生産能力とか、渡辺さんが研究する江戸、明治の庶民には想像もできなかった量と質のものを私たちは手に入れました。でもそれで本当に幸せになったのか。

「『自己実現』という言葉に振り回されている気もしますね。それは、ただの出世の話でしょ。社会規範にうまく適合し、基準を上手にマスターし、高度資本主義に認められたステータスに到達したというだけのこと。自分の個性に従って生きれば誰しも自己は実現されるんです。」

「まだ経済成長が必要ですか。経済にとらわれていることが、私たちの苦しみの根源なのではありませんか。人は何を求めて生きるのか、何を幸せとして生きる生き物なのか、考え直す時期なのです」

手のかかった美味しいご飯、流行の素敵な洋服、快適な住宅、そういうものがもたらす幸福を否定はしないし、できません。でも根本にあるのは、他者と出会い、関わり合い、その中で自分がどう変わり、生きていくのかということ。そこに人が生きる意味があると断言する渡辺さん。ずっと大切にしたい言葉との出会いでした。