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第40回 シリーズ「あこがれ」その2 もずくそうめん


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第40回
シリーズ「あこがれ」その2 もずくそうめん

暑い夏がまだまだ続いている。今年も夏休みに宮古島とそのとなりの島、池間島へ行ってきた。クウネルvol.32『沖縄のリズム』で島の旧暦行事“サニツ”を取材したのをきっかけに、あることが目的で毎年、池間島の海へ通っている。

取材当時、沖を走る舟『吉進丸』の様子を追跡撮影する為に『和剛丸』の芦川船長にお世話になった。『和剛丸』は普段、つり客やシュノーケリング、ダイビング客の為のチャーター船だが、僕はこの『和剛丸』で珊瑚の美しい八重干瀬(やびじ)という場所へ連れて行ってもらうことを、それ以来楽しみにしている。芦川船長はその日の天候と風や潮の流れをよみ、まるで自分の庭のように、魚が沢山いる場所や透明度が高く珊瑚が奇麗なポイントへ案内してくれる。台風が多いこの季節は快晴であっても風で海が時化ていたり、海水の温度の変化で魚の居場所や海の透明度などが変わりやすいから、芦川船長の勘と経験が頼りだ。芦川船長の案内してくれる八重干瀬は別世界のように美しい。熱帯魚を追いかけながら水中写真を撮ったり、舟の上でその魚の種類や珊瑚の話を聞くのが楽しい。

ほとほと泳ぎ疲れた頃、和剛丸が時速40キロくらいでゆっくりと港へ帰る。その時に脱力した身体に受ける潮風がたまらないのだ。

でも本当に楽しみにしているのは帰ってから船長のお宅で食べる『もずくそうめん』だ。「いつも食べられるわけではないからね…」が口癖の船長自ら振る舞ってくれる『もずくそうめん』。そのまま湯がいたそうめんと島で穫れたもずくを混ぜ合わせた、至ってシンプルなメニューだが、最高に美味しい。もう『もずくそうめん』が目的で毎年和剛丸をチャーターしてると言われてもいい、と思っている。

平成23年9月20日
マドロス陽一