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Airbnbで楽しむ、ニッポンローカルの旅03丘の上の窯元と瀬戸内海 #001

提供:Airbnb

陶芸体験ができる、緑あふれる小さな窯元へ

Airbnbに滞在することで、出会える旅の魅力を紹介していきます。
第3回目は、ヌードルライターの山田祐一郎さんをゲストに、
瀬戸内海を望む、岡山県の児島を訪ねました。
自然に囲まれた備前焼の窯元で出会ったのは。

ひゅん、ひゅんと景色が流れる。走る車両の窓には雨粒がぶつかり、次々と弾けていった。旅行に出かける、しかも遠方に。いつもだったら、このあいにくの雨に気が滅入るところだが、この日は違った。ぼくには“初体験”が待っていたから。

博多から新幹線で岡山駅へ。それから四国へと向かう特急列車に乗り換え、児島駅を目指す。所要時間はおおよそ20分ほど。ヌードルライターという肩書きをつくり、福岡を拠点に各地で麺を食べ、記事にしているぼくにとって、この児島駅は讃岐うどんの地・香川へ向かう途中にある通過駅のひとつだった。

何度も通ってはいる駅だが、途中下車するのは初めて。そして、この日泊まるのは人生初のAirbnb。人生初———38年も生きていると、それなりに経験値も積んでいて、なかなか人生初というものに出くわさない。そう思っていたが、すでにふたつの人生初ではないか。

宿泊先の児島というまちはイコール“ジーンズ”というくらい、そのイメージが強く、実際、ほかに何があるのか知らなかった。だからこそ、今日の宿泊先が楽しみでならなかった。

カーキさんが営むそのリスティングは、鷲羽窯という窯元でもあり、陶芸体験ができる。作陶するのは、岡山の焼き物として知られる備前焼。器好きながら蒐集ばかりのぼくは、このリスティングで生まれて初めての陶芸体験も事前に申し込んでおいた。人生初が3つも待っている旅。雨なんて、一向に気にならない。

リスティングに併設するギャラリーでは鷲羽窯の作品を販売。力強くも、繊細さを備えた器たちは見るほどにその魅力が滲み出る。

児島駅に着くと、すぐにここがジーンズのまちであると主張するディスプレイがなされていて、思わず口もとがゆるむ。ジーンズが嫌いな人はいないな。なんて名言っぽい言葉すら頭に浮かぶ。明らかにノっている。知らない場所に行くと、五感は全開になる。この開いている状態が旅の醍醐味なんじゃないかな。

改札口を抜け、ベンチに腰掛け、カーキさんを待った。

「こんにちはー! 山田さんですよね?」

デッサンノートには、ぼくがライターということもあり、取材に使うペンやノート、パソコンのイラストが描かれてあった。

振り向くと、初めて会うカーキさんが立っていた。なんでこの男性がカーキさんだとわかったのかというと、手に持つデッサンノートに大きく「Welcome YUichiro」と書かれていたからだ。自分ひとりだけに向けたダイレクトな歓迎は、胸にグッとくるものがある。

がっしり握手をし、カーキさんの車に乗って、リスティングへと走る。車中でお互いの簡単な自己紹介をすませ、目に入る景色やこれから滞在するリスティングのこと、カーキさん自身のことなど、気になった興味のあることをいろいろと尋ねてみた。

駅まで送迎してくれるのはうれしい限り。カーキさんの安全運転でリスティングへ。

陶芸家といえば、「ダメだー!」と言って不完全な壺や皿を床に叩きつけるような豪快かつ実は繊細で、職人気質に溢れ、ちょっと気難しいような人間像を抱いていたが、カーキさんはそんなイメージとはまったく重ならなかった。スラッと背が高く、気さくで、ジーンズが似合うナイスガイ。

「やっぱりジーンズですよね」と言うと、
「そうですね、やっぱりよく履きますよ。昔からね、ミシンの音がまちのいたるところで鳴り響くんです。工場もそうですし、主婦の方々が縫製を請け負って、自宅でジーンズを縫うんですよ。ミシンの音は、まちの音ですね」
と返してくれた。その言葉で、なんだか児島というまちのことが、少しだけわかった気がした。

児島ならではの不思議な光景。このノコギリ型の屋根は繊維産業の工場に多く見られる特徴なのだ。屋根の垂直部分に大きな採光用の窓を設け、内部へ間接的に取り入れた外光によって一定の明るさを保っている。生地の絵柄、色の組み合わせを確認するのに適しているそう。

その後も物腰やわらかなトーンで、あれは〜、昔はここは〜だったというように観光案内をしてくれたおかげで、あっという間にリスティングに到着した。

驚いたのが、その敷地のスケール。大通りから山手に少し登った丘の途中にあるこのリスティングは、周囲を木々に囲まれた自然そのままのスローなロケーション。

色濃い緑が周囲に広がるリスティング。

その敷地内には、リスティングのほか、ギャラリースペース、登り窯、陶芸教室が連なる集合建物を中心に、別棟としてカフェ〈HÜTTE〉(ヒュッテ)があったり、無造作にピザ窯が設けてあったり、少し山手に登ると養蜂のための巣箱や原木栽培のシイタケなどがあったり、おおよそ視界に映る場所のすべてが鷲羽窯の敷地だ。

HÜTTEは料理やコーヒーの味はもちろん、見晴らしの良さも魅力のひとつ。
シイタケの栽培、養蜂は孝峰さんが、カーキさんは義父と無農薬のお米を栽培している。「ゆくゆくは自給自足の生活を送りたいですね」と笑顔のカーキさん。
差し込む日光を受けて幻想的に浮かび上がっていた登り窯。年に2度、火を入れている。

現在35歳のカーキさんがAirbnbを始めたのは2016年10月。このリスティングはもともと、カーキさんが暮らしていた住まいだ。「実はこの建物を含め、敷地にあるものはほとんど父による手づくりなんですよ」と教えてもらい、衝撃を受けた。そう言われなければ、まったくわからないくらいの完成度の高さなのだ。

ギャラリーで販売されている作品は宿泊せずとも購入可能。器はひとつひとつ表情が異なるので、じっくり吟味したい。

カーキさんの父・孝峰さんは山を切り開き、土地の基礎を整え、ブロックを積み上げ、木材を組み、工房、ギャラリー、カフェをゼロからつくり上げた。孝峰さんは30年くらい前に勤めていた住宅メーカーを辞め、それから陶芸の道に進んだ。建物の建築、設計は独学。根っからの“ものづくりの人”なのである。

カーキさんとその母・敬子さん、そして父・孝峰さん。ご両親も気さくで、フレンドリー。

カーキさんもそんな父の背中を見て生きてきたからか、自然とものづくりの世界へと引かれていった。ドラムで身を立てるべく上京。18〜21歳を関東で過ごし、22歳の時に岡山に戻り、備前市の窯元で備前焼を一から学んだ。父とともにここで作陶し、陶芸教室を営んでいくつもりだったが、ひょんなことからAirbnbの存在を知り、自分でやってみようと思い立つ。

イスに座ってひと息。何もせずにぼーっと過ごすのも悪くない。そんなことを思わせる緩やかな時間が流れていた。

「児島のことをより多くの人に知ってほしい。好きになってほしい。これが原動力です。ゲストがホストと交流することで、より深く地域の魅力に触れられるAirbnbは、とてもいい手段のように思えました。当然、不安もありましたよ。そもそも当時はAirbnbを利用したことがなかったので、何をどうやったらいいのか、全然わかりませんでしたから。友人の紹介で福岡県古賀市にAirbnbを営んでいるホストがいるのを知り、滞在してみたんです。そこで受けたおもてなしに感激して。来てくれた人を喜ばせたいという心がしっかりあれば、あとは営んでいくなかで慣れてくるだろうと思えるようになりました」

Airbnbを始めてから毎日が楽しいというカーキさん。「日々、ゲストから刺激をもらっていますよ」。

現在、利用者の9割が外国人で、彼らの多くはアートを好み、主に島全体にアート作品や美術館が点在する〈直島〉への旅の起点としてこのリスティングに滞在しているのだという。

リスティングにはシングルベッドが2つ、ソファが3つ、ダイニングテーブルが備えてあり、最大5人まで利用可能。水周りは清潔で、特にバスルームは大きなバスタブ、水量の豊かなシャワーが用意してあり、快適な時間が過ごせる。

ひと通りリスティングを案内してくれたカーキさんに、おすすめの過ごし方はありますか、と尋ねてみると、「気の向くまま、自由に過ごしてください」という答えが返ってきた。そして、カーキさんはこう続けた。

思わず飛び込みたくなるふかふかの布団。掃除も行き届いていて、とても快適だった。
ソファにはカラフルなクッションがころんと置かれていた。気どったところがないのでリラックスできる。

「〜をしてほしいというように、ぼくから押しつけたくはないんですよ。例えば『いい景色が見える場所を教えてほしい』というように、やりたいことをおっしゃっていただければ、いろいろと候補をお伝えします。あくまでゲストが主体になって楽しんでほしいんです。そのほうがきっと心に残る旅になると思うんですよね」

児島は昼の2時。外はまだ雨模様。メトロノームのように一定のリズムで雨の雫がぽたぽたと落ちる。この天気で野鳥も、虫もひっそりと身を潜め、雨のビートだけが刻まれていく。かねてからやってみたかった陶芸に、この静寂は打ってつけだと思えた。幸い時間はたっぷりある。

ギャラリーのファサード。中に入って右手に登り窯があり、その先に陶芸教室の空間がある。

Photo:tada text:yuichiro yamada

Guest Profile
山田祐一郎

やまだ・ゆういちろう●福岡県出身、現在、福津(ふくつ)市在住。日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライターとして活動中。麺の専門書、全国紙、地元の情報誌などで麺に関する記事を執筆する。著書に「うどんのはなし 福岡」。 http://ii-kiji.com/ を連載中。

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