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Airbnbで楽しむ、ニッポンローカルの旅03丘の上の窯元と瀬戸内海 #002

提供:Airbnb

陶芸のおもしろさを知る。夜は瀬戸内の魚に酔う

Airbnbに滞在することで、出会える旅の魅力を紹介していきます。
第3回目は、ヌードルライターの山田祐一郎さんをゲストに、
瀬戸内海を望む、岡山県の児島を訪ねました。
自然に囲まれた備前焼の窯元で出会ったのは。

「よかったら、陶芸の前にちょっとコーヒーでも飲みませんか」というカーキさんからの提案に乗り、敷地内のカフェ〈HÜTTE〉(ヒュッテ)に場所を移した。ここはカーキさんの母・敬子さんの昔からの友人が営んでいるお店で、この建物もまた、孝峰さんが仲間の協力を得ながらセルフビルドしたものだ。

「HÜTTE」はドイツ語で、登山者やスキーヤーたちが宿泊や休憩するために作られた小屋を意味する。

ここで使われている器は、店で働く陶芸作家ドン・パーカーさんによる作品であり、加えて言えば、壁に掛かる時計も、天井からぶら下がるディスプレイも、眼に映る大半のものがすべて作品なのだと知って感心した。

時計は非売品。この空間にとても似合っていた。

コーヒーを飲みながら、カーキさんに備前焼の基本知識を教えてもらった。まず最大の特徴は、釉薬を使わない点。褐色に近い赤みのある表情、そして“窯任せ”な想像できない模様が持ち味だ。

「そろそろ始めましょうか」というカーキさんの言葉に頷き、カップに少し残った涅色を飲み干し、陶芸教室の建物へ移動する。

初めて実際に触れる陶芸作家の世界。

ちなみに陶芸体験は手ぶらでOK。無料で借りられるデニム生地のエプロンを腰に巻いたら準備完了だ。

「まずどういう器をつくりたいか、簡単でいいので描いてみてください」と言われ、我が家の食卓を想像した。最初にほしいなと思ったのが、ちょっとした汁物、煮物などが盛れるような椀。備前焼は使い込むほどに味わいが出ると聞いていたので、自分の手に馴染むように育てていける酒器もいいなと思った。平皿も頭に浮かんだが、やや難易度が高いそう。なんせ初めての陶芸。自ら高いハードルを課すことはあるまいと踏みとどまる。2作品までつくれるということだったので、最終的に椀とぐい呑に決めた。

デニムエプロンを腰で巻いたら準備万端。

今回の体験で使用するのは電動の轆轤(ろくろ)。取材で何度か近くで見たことはあるが、自分がこれを用いるのだと思って見ると、なんだか大きく感じる。足を広げ、電動轆轤に正対し、右足で回転する速度を調整、左足で体を支える。これが基本的な姿勢だ。

「土台づくりはちょっと難しいですから、ぼくがやってみましょう」。そういってカーキさんが轆轤を回しだした。すーっと速度が上がり、やがてその回転は一定になる。「慣れるまでは一度、最大まで回転させて、それから少し速度を緩め、頃合いのところでキープします」という説明を聞いているうちに、円柱状の土台の中央に穴ができ、カーキさんの手の動きに合わせ、円がすーっと広がる。

カーキさんによる土台づくりを真剣に観察中。

「試しにひとつ、ぼくがつくってみましょうね」と言うや、みるみるうちに茶碗の形になってしまった。「こんなにあっという間にできてしまうんだ」という感動と尊敬の眼差しでカーキさんの手元に見入っていると、「では、実際にやってみましょうか」と促され、一気に現実に戻る。

まずは中央に穴をつくる。穴を深くするほど大きな器になる。

右足に力を入れ、轆轤を回す。言われた通りに一度マックスまでペダルを踏み込み、そこから少し戻して回転速度を落とす。目の前には、カーキさんが整えてくれた土台。手を濡らし、回転するその円柱の中心に指を入れる。思ったよりも固く、少し力を込めると指が土の中に沈んでいき、器の原型の姿が現れ始めた。途中、適度に手を濡らしつつ、指の先端に神経を集中しつつ、少しずつ広げていく。

僕が初心者ということもあるが、やはり力加減が難しい。欲張って直径を早く広げてしまおうとすると、余計な力が入って、中心がずれてしまう。コツコツ、少しずつ、力の入れ具合をコントロールしていくうちに、周りの音が聞こえなくなる。はたとそのことに気がついて、ふうっと大きく息を吸い込んで、深く吐き出す。

コツがつかめてきたら肩の力も抜けていく。

いったんいい感じに形が整ったので、カーキさんに声をかけ、指示を仰ぐ。
「もう少し下のほうを薄くしましょうか」
といったように具体的にアドバイスをくれるので、その言葉に従って作業を進める。完成後、窯に入れて焼き上げるとおおよそ2〜3割、縮むのだという。完成時の大きさを想像しつつ、没頭。椀、ぐい呑が完成した頃には1時間くらい経っていた。

思ったようにできないところがおもしろい。そしてほんの少しでも上達するとなお楽しい。
ぐい呑(中央)、椀(右)が完成!

つくった器は後日、火を入れた後、郵送で送ってくれることになっている。どんな色になるのか、今から届くのが待ち遠しい。

集中したせいか、極度にお腹が減っている。事前に「夕飯に瀬戸内の魚や児島らしい食事を堪能したい」と伝えておいたおかげで、カーキさんがお店を予約しておいてくれた。この日は取材にご協力いただいたお礼も兼ね、カーキさんもご一緒してもらうことにした。

この日も地元っ子で満席だった人気店。

向かった先は〈旬菜 ふじ田〉。土地勘がなく、また日もほどほどに暮れていたが、それでも駅界隈の中心地からはやや離れた場所に店があるのはわかった。看板は控え目で、外から中の様子がわからないような、気の利いた和食の店。到着した時点で席はすでにほどほど埋まっており、ぼくらは個室に通してもらった。

コースの中の刺身の一例。ネタは季節によって変わる。

この日は味わったのはコース料理。前菜の春野菜とチーズトマトの白和えにさっそく頬が緩む。出汁のジュレの旨みにチーズのコクが合わさった、酒宴の始まりにふさわしい一品だった。
ビールで喉を潤したあとは、せっかくなので岡山の地酒にスイッチする。選んだのは、全国有数の米どころとして知られる岡山県赤磐赤坂産の朝日米を磨いてつくられた〈備前50〉という銘柄の純米大吟醸。フルーツのまち・岡山を連想させるトロッとした甘みを感じさせる酒で、ただ、それでいて、もったりと口に残ることなく、その余韻のキレがよく、飲み進めるほどにその印象は上品だ。

〈備前50〉は冷酒でいただいた。冷たいものは冷たく出すという心遣いがうれしい。

この日の白眉は瀬戸内のサワラ。晩春から初夏にかけて産卵によって瀬戸内海へと流れ込んでくるサワラはまさに今(取材日は4月中旬)が旬だ。刺盛にのった切り身は切り口がぴっと立ち、醤油にちょっとつけると脂が表面にすっと広がる。絶好のタイミングで味わうことができた。また、脂がのったサワラは焼いても格別。じわりと表面に脂がにじむ身に木の芽味噌をかけ、ミョウガを添えた一品も大いにぼくの舌を喜ばせてくれた。

料理の味もさることながら、合わせる器のセレクトにも脱帽。

そのほかの新ジャガまんじゅう、そして海老塩が添えられた天ぷらの盛り合わせも申し分なく、ついつい杯を重ね、すっかり上機嫌に。ぼくの場合、旅において食は重要なウエイトを占める。現地で何を食べるか検討する際、観光ガイドブックやインターネットの口コミ情報は確かに便利だが、本当においしいお店はそんな網をするりと抜けて、ひっそりと潜んでいることをこれまでの人生で学んだ。

そんな地元っ子たちに静かに愛されているお店にこうやって出会うには、自分の感覚と近い人に教えてもらうのが一番。いい人は、いい人を知っている。いい人はいいコト、モノとつながっている。

リスティングに戻り、途中で買っておいた缶ビールをプシュッと空ける。楽しかった1日を回想しつつ、ゴクリと飲み干し、目覚ましはかけずに寝た。

締めまで存分に満喫した。カウンターもあるのでひとりでもふらりと立ち寄れる。

Photo:tada text:yuichiro yamada

Guest Profile
山田祐一郎

やまだ・ゆういちろう●福岡県出身、現在、福津(ふくつ)市在住。日本で唯一(※本人調べ)のヌードル(麺)ライターとして活動中。麺の専門書、全国紙、地元の情報誌などで麺に関する記事を執筆する。著書に「うどんのはなし 福岡」。 http://ii-kiji.com/ を連載中。

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