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食事革命 vol.11 糖質制限食を実験してみる。

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vol. 11 糖質制限食を実験してみる。

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W杯最終予選は、11月15日にサウジアラビア戦を迎える。
11月現在、ロシアワールドカップのアジア最終予選が佳境を迎えている。4年ぶりのサッカー大会の最高峰への挑戦、ということもあり、2016年、僕は食事革命の最大の肝ともいえる取り組みを始めた。
それは糖質制限だ。

米好きの僕は、日本から定期的に米を取り寄せて、ごはんを朝、昼、晩と3食食べることも珍しくなかった。それをガラリと変えることにしたのだ。

もうすでに述べたが、朝食はパンやごはんからスムージーに切り替えた。夕食の炭水化物をカットし、タンパク質食材と野菜の量を増やした。昼食の主食も体調と相談しながら抜くことが多くなった。

たとえば、ある日のメニューは以下の通りだ。

・朝食 スムージー
・昼食 サラダ、野菜のスープ、鶏の胸肉のソテー
・夕食 サラダ、スープ、白身魚&青魚のソテー

周りには体重管理が必要な選手や体脂肪が多めの選手が少なからずいて、彼らもまた、糖質カットの食事をしていた。だが、僕の目的は痩せることとはまったく別のところにあった。

カラダの主なエネルギー源は、糖質と脂質のふたつ。このうち、手っ取り早いのは前者だが、最終的にエネルギー効率がいいのは後者。というのは、体内に蓄えられる糖質は250gとごくわずかなのに対して、脂質は5kg、10kgもの量をキープすることができるからだ。

さらに、脂質から分解された脂肪酸が燃焼するとき、肝臓ではケトン体が作られる。これもまた立派なエネルギー源だ。実際、空腹時や夜間は、どんな人でも脂肪酸やケトン体をエネルギー源として活用しているのだとか。よく、脳の唯一のエネルギー源は糖質と誤解されているが、ケトン体もエネルギーとして使われているのだ。

人類700万年の歴史の中で、穀類を食べられるようになったのはわずか1万年前。それまで人は糖質よりも脂肪酸とケトン体をエネルギー源としていたと考えられている。

食生活を根本から見直そうと決意したとき、僕は以前から興味のあった糖質制限に関する本を数十冊、貪るように読みあさった。そして、こうした知識を得たのだった。

サイドバックというポジションでベストのパフォーマンスを目指す第一条件は、常に全力でピッチを上下動できるスタミナを確保することだ。

90分の試合にフル出場する場合、最初から最後までバテずにパフォーマンスを維持するには、糖質・グルコース中心のエネルギー回路に頼るより、脂肪酸・ケトン体エネルギーを活用する方が効率的なのではないだろうか。そう考えた僕は、早速、ケトン体回路にするために糖質制限の食事を取り入れたのだった。

最初は絶好調だったが、
次第にエネルギー不足に。

ひとつの食材について、これはカラダにいいという人と、いや全然よくないという人がいる。ダイエットをするときも、カロリー制限と糖質制限のどちらがいいかとなると意見が分かれる。いろいろな立場からのいろいろな見解があり、情報が過多になって何を信じていいか分からなくなる人も多いだろう。

でも僕はずっと、万人に通用する食事メソッドなどないと思っていた。人はひとりひとり異なる遺伝子や細胞を持っていて、その人その人に合った食事法がある。それが合っているかどうかは、自分のカラダの中から出てくるシグナルで判断できるはずだと。

僕の唯一にして絶対的な羅針盤は、ピッチに立ったときの自分自身の感覚。カラダのキレや試合の最後まで疲れを感じずに戦えるかどうかという感覚だ。

糖質制限を試したのはまず1週間。始めて間もなくは、とてもいい感触を得ていた。余分な内臓脂肪が減り、以前に比べてカラダも軽くなり、試合後の疲れの度合いもそれまでより軽減されたように感じられた。

ただ、これを正解とするのは早計だと思っていた。ピッチでいいコンディションを保つために、今はいろいろなことを試している最中、いわばまだ「実験中」という意識があったからだ。

やると決めたらとことん実行するのが僕の身上である。その後も極端ともいえる糖質制限を行っていくなかで、練習を終えて昼食を摂る前などに、たまにエネルギー不足を感じるようになった。ふと、

「このままでいいのか……?」

と思い始めたときだ。SNSを通じて一通のダイレクトメッセージを受け取った。差出人の名は、加藤超也なる人物。横浜にあるイタリア料理店のシェフだという。

プロのサッカー選手の食事サポートの経験もあるという加藤シェフは、料理人としての経験と知識を生かしてアスリートの食事をサポートし、より多くの人に食事の大切さを伝えていきたいという熱い思いの持ち主だった。そして、僕がSNSにアップしていた食事内容を見て、こんなコメントを送ってきたのだ。

「糖質制限をされているようですが、エネルギー不足に陥っていないでしょうか?」

図星だった。(次回に続く)


糖質制限
日々の食生活で過剰に摂取しているごはん、パン、麺類などの炭水化物や白砂糖といった糖質量を見直し、摂取量をコントロールする食事法。
体内に蓄えられる糖質
体内に貯蔵される糖質はグリコーゲンという形で筋肉や肝臓にプールされている。その量は250g程度。
ケトン体
糖質制限食をある程度続けると、カラダは糖の代わりにケトン体を使用。この状態をケトーシスという。



YUTO NAGATOMO

●ながとも・ゆうと 小学校1年でサッカーを始め、東福岡高校、明治大学を経てFC東京でプロデビュー。2010年イタリアに渡り、現在インテル・ミラノに所属。

構成/石飛カノ 撮影/中島慶子 監修/石川三知(Office LAC-U)