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社会全体が子どもたちの良き代弁者になれば、素晴らしい社会ができていく。

社会全体が子どもたちの良き代弁者になれば、素晴らしい社会ができていく。

『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』の出版以来、高橋先生には各地でご講演いただいております(注1)。
今回は、先生の母校である慶応義塾大学三田キャンパスにある三田演説館で行われた講演「子どもを育む遺伝の力、環境の力」(2019年11月26日 第709回三田演説会)から一部をご紹介いたします。

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↑高橋先生のスピーチが聴けます。


福澤諭吉と初期の慶應義塾入門生が、「演説」や「討論」という方法を日本に紹介するまでは、「しゃべり言葉で意見を言い合うなどということは、日本語には向いていない」と思われていたそうです。「三田演説館」は明治8年に福沢諭吉が日本最初の演説会堂として建設し、国の重要文化財にも指定されています。

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三田演説館

――現代の小児科の2つのミッションとは?

「基礎医学が長足の進歩を遂げたおかげで、成長と発達を扱う自然科学としての小児科学は今、非常に大きな発展を遂げています。成長と発達はほとんど遺伝子によってコントロールされています。また一方で社会人文科学としての小児科学を考えると、虐待、貧困、いじめなど、子どもたちが直面している困難を克服するために力を貸すのも、現代の小児科学の使命です。子どもたちが将来幸せになるための道筋を整えることは、そのための環境を整えることにほかなりません。現代の小児科の2つのミッションは遺伝と環境にアプローチする科学にほかならないのです」

――遺伝子の力と環境の力の違いは?

「人の一生は、遺伝の力と環境の力の両方に支えられて、そのバランスの上に成り立っています。世間では遺伝子というと差別とか、取り返しのつかないこと、努力しても無駄なこと、という負のイメージがあるようですが、遺伝子の力は何だと思いますか? それは『変わらない力』です。変わらないことによって人を守る。そして、『実際に体験することを必要としない』ことです。恐ろしい敵が襲ってくる時に逃げること。あるいは赤ちゃんが歩くようになることでもいいです。人間が生きて行く上でどうしても必要なことを手に入れるために、遺伝子はあらかじめそこにいて、体験せずとも必ず我々を守ってくれる。ここがすごいところです。一方、環境の力は『変わる力』です。そして遺伝子と違うところは、必ず『体験』してこそ力を発揮するという点です。流動的で不確定だけど、繰り返すことによって、変わらぬものとして、我々の中に定着し、我々を育み、守ってくれる。それが環境の力です」

――個性の範囲を病気と勘違いすると不幸になる

「すべての成長と発達にはバラツキがあって、それは個性という素晴らしいものです。特に発達の進み方はほとんど遺伝子で決められた道筋に沿っています。何かをしたから早く歩けるようになるとか、お座りを無理やりさせたところで、その後の運動神経の発達とは関係がない。早い遅いは遺伝子が決めている正常なバラツキにすぎないからです。医師は専門家である以上、正常な幅を理解している必要があり、心配するお母さんに、それは大丈夫なのですよ、と説得する義務があります」

――教育環境の一番すごいところとは?

「ディスクレシアといって生まれつき読むのが苦手な子がいます。いくら頑張っても読むのが得意な子に追いつけない一方で、そういう子たちと同じように、小学校から中学校にかけて、読む能力が右肩上がりに上がっていく。すなわち教育効果は同じだということです。超えられない壁がある一方で、自分なりに努力していけば、必ず成果をあげられる。そこが教育環境の一番すごいところなんですね」

――小児科医は代弁者だ

「代弁者とは小児科学会が提唱している言葉です。病気を治すだけではなく、子どもや、若いお父さん、お母さんの代弁者であることも小児科医の大事な仕事です。そのためには、『傾聴力』と『説得力』を発揮することが不可欠だと思うのです。これらの力は臨床研修という実体験がないと身につかない。苦しそうにたたずむ物言わぬ子ども、ただただ漠然と不安な気持ちでいるお母さん。かれらの話を共感しながらよく聴き、真のストーリーを引き出す『傾聴力』。次に、診断や治療方針について子どもや親御さんを説得する。独りよがりの医師、一方的な医療にならないためには『説得力』が不可欠です。『説得力』の原動力は『傾聴力』です。よく話を聞いてくれたと感じる相手の言うことには説得力がありますよね」

――すべての大人は代弁者であるべき

「すべての大人は、子どもに対してだけではなく、すべての人に寄り添う優しさを持ってほしい。つまり、代弁者であってほしい。育児や教育の基本もそこにあるのではないでしょうか。たとえばしつけや教育についても、親が、大人が決めたことが、子どもに寄り添った優しさの産物なら、強い説得力があるはずです。社会全体が子どもたちの良き代弁者になれば、素晴らしい社会ができていくのではないでしょうか」

注1)高橋孝雄先生講演記録
2019年
5月27日 岐阜市第1回幼児教育セミナー
5月29日 明石市錦江幼稚園
6月28日 聖心女子学院初等科
7月1日 高知県生徒指導担当者・生徒指導主事件研修会
10月11日 三鷹市スポーツと文化財団主催 三鷹市市民大学総合コース
11月9日 加賀市子育て応援ステーション
11月23日 草加市男女共同参画フォーラム
11月24日 静岡市子育て支援担当者研修会
11月28日 藤沢市鵠沼公民館
12月4日 白百合学園小学校

高橋孝雄先生プロフィール
1982年慶應義塾大学医学部卒業。マサチューセッツ総合病院小児神経科勤務、ハーバード大学医学部の講師などを経て、2002年に慶應義塾大学医学部小児科学教室教授に就任。学内では副病院長、医学部長補佐を歴任し、その間12年にわたり、感染対策、医療安全、研究倫理などに携わり、病院医学部の危機管理を担い、学外では日本小児科学会会長、国際小児神経学会理事、日本小児神経学会理事長などを務め、小児医療を牽引する立場として活躍中。
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小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て

— 高橋孝雄 著電子版あり
  • ページ数:200頁
  • ISBN:9784838730131
  • 定価:1,430円 (税込)
  • 発売:2018.09.06
  • ジャンル:実用
『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』 — 高橋孝雄 著

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