
異色のレシピ本が登場!
ハンバーグに卵を入れてはいけません???
あなたの料理の常識が変わる!?異色のレシピ本の著者・樋口直哉さんを直撃!!
「ほうれん草を茹でるとき塩を入れる」、「ハンバーグをこねるとき卵を入れる」などなど。これらは料理の常識だと思っていませんか? そんな昔ながらの当たり前を、理論的に見直した本が今、巷で話題です。「最高においしくつくれる」「料理の新常識が書かれている」と、ラジオやテレビ、SNSなどで注目を集めています! この『新しい料理の教科書』という本を書かれたのが、樋口直哉さん。料理人と作家の二足の草鞋を履く少々? 変わった経歴の持ち主(芥川賞候補にも!)。そんなナゾの多い著者にお話を伺ってきました!
―――先日、ピースの又吉直樹さんと出演した番組(『タイプライターズ』(フジテレビ系列))見ました。
ありがとうございます。『新しい料理の教科書』はテレビやラジオで取り上げていただく機会が多くて、うれしい限りです。
―――他のレシピ本と比べてみたのですが、『新しい料理の教科書』は文量が多く、読み応えがありますよね。
そうですね。文字文字という感じで(笑) レシピ本というジャンルですが、かなり読み物に近いと思います。僕は料理家でもありますが、文章を書く仕事もしているので、そういう意味で自分らしいのかな、とは思っています。
―――「調理のなぜ?」を解説してくれているので、ぐいぐい引き込まれてしまいました。この本はどんなテーマでつくられたんですか?
ネットにはたくさんレシピがあふれていますけど、便利な反面、同じ料理なのにあっちのレシピとこっちのレシピで違うことを言っているってことがよくあるんです。例えばあるレシピでは卵に塩を入れるな、と書いてあって、違うレシピでは塩を入れましょう、と書いてあったり、ちょっと検索しただけでも矛盾したことが書かれてたりする。その状況を整理したかったんです。
―――樋口さんのレシピは非常に論理的と評判です。私の場合いつも生姜焼きをつくるときに調味料を全部一度に合わせていました。酵素の力で肉をやわらかくする「おろし生姜+酒」と、味付けの「醤油+みりん+砂糖」、と二つに分けて使う調理方法にとても驚きました。
生姜焼きはそこがオリジナルな部分ですよね。レシピを考えるときにはいつも、すこしずつ条件を変えて、試作するようにしています。「おいしさ」には仕組みがありますし、科学的な裏付けがあるので、それを知っているか、知らないかだけで、料理のでき上がりってすごく変わってくるんです。だから、普段「料理がおいしくできない」という方はぜひ一度、レシピどおりにつくってもらって、いつもの手順とどこが違うか感じてもらうと、他の料理も上手にできるようになると思います。

―――実は……、私も樋口さんのレシピでいくつかつくってみたんです。よろしければ、アドバイスをいただけますか? つくった料理の写真ならあるのですが、これだけでも大丈夫でしょうか……? ずうずうしいお願いですいません。
いいえ!うれしいです。任せてください。料理って、レシピと写真を見ればどんな味かはだいたいわかるんですよ!
―――そんなことが可能なんですね!?すごい……ありがとうございます!では早速ですが、これがオムレツの写真です。比較できるようにまず実家の母のレシピでつくってみたものを……。

焦げちゃったんですね(笑)
―――そうなんです……。
焦げ目はおいしいからいいんですけど、色むらが気になります。これは混ぜ足りない状態ですね。
―――母は卵のコシがなくなっちゃうからと、しっかり混ぜないでつくっているみたいで、私も同じようにしてしまいました(泣)
卵の白身と黄身は凝固温度が異なるので、しっかりと混ぜて均一にする必要があります。そうしないと黄身は先に硬くなりますし、白身と黄身の部分が離れてしまうので、きれいな形にならないんですよ。なので、僕の本のなかでは(レシピ「最高のオムレツ」)卵を混ぜる時は泡だて器を使うように書きましたが、どうでした?
―――はい!ちゃんと泡だて器でしっかり混ぜました。母のレシピよりは上手にできたと思います!

いいですね!できているじゃないですか。味はどうでしたか?
―――一緒に食べた家族からは、いつもよりおいしいと評判でした。うれしかったです!
それはよかった。こういう達成感が一つずつ積み重なって料理はうまくなっていくものですよ。ちなみに、僕のレシピだと卵は三個だったと思います。お母さんのレシピだと卵は何個でしたか?
―――母のレシピだと、卵は二個でした。なぜ樋口さんのレシピは三個にしたんですか?
三個だとフライパンの中で形をつくりやすいからです。二個よりも三個のほうが卵を入れたとき、フライパンの温度がより下がるので、ゆっくりと固まってくれます。つまり、加熱の具合や整形する時間が稼げるんです。プロが三個使うのはそのほうが簡単だからです。
―――確かに!二個の時よりも三個の方が扱いやすかったです。
だから、ちゃんとおいしくできるんです。他のレシピはつくりましたか?
―――ナポリタンもつくってみました!ケチャップの量をちゃんと測ったのに味が薄くなってしまいました……。

おぉ~。隠し味にちゃんとウスターソースを使っていますね。ケチャップは計ってみると結構、量があるんですよ。でも、これはちょっと具材が多いな。つくったのは一人分ですか?

―――そうです!食材を無駄にしたくなくて、具材を多めにしてしまいました……。
この具材は二人分くらいありますよ(笑) 次は調味料だけじゃなくて、具材もきちんとレシピ通りにつくってみてください。いつも計る必要はないんですけど、一度計ってみると「これくらいの量でいいのか」とわかるので。
―――レシピ通りつくることがやっぱり大事なんですね。肝に銘じます!
レシピに従う必要はないんですけど、理解するのが大事なんです。僕にとってレシピは手紙みたいなもの。手紙って相手に命令して、従って欲しくて書くわけじゃなくて、わかってもらうために書くじゃないですか。レシピどおり作ってみて、好みにあわなかったら次は分量を変えてもいい。でも、レシピを書く以上は”おいしい”って感覚を共有したくて頑張っているんですけどね。
―――おいしいを共有するっていうのは、一緒に食べたりするってことですか?
それももちろんありますし……僕のレシピでつくった料理をSNSにあげたりしてくれるのも、おいしさを共有してることになると思う。それがレシピを書くことで達成したい目標です。作るときの目的はやっぱりさっきのオムレツみたいに身近な人に食べてもらうこと。自分がつくったものを誰かが食べてくれて「おいしい」って言ってもらうのはすごく幸せなこと。それにそういうのが自信になるんですよね。
―――そうですよね!珍しく家族に味をほめられて、前より自信がつきました。
「なぜ」この調理工程があるのか、ということを理解してもらえれば、僕がレシピに書いた新常識たちに納得してもらえるはずです。なにより、最高においしくつくれるはず。基本をマスターしたら、次はぜひ自分なりにアレンジしてみてくださいね。
取材を終えて……
おいしくつくるコツにはきちんと理由があることに感激!マンツーマンの家庭教師のように懇切丁寧に教えてくださいました(泣) 料理家の方に直接教わる機会は滅多にないので、実家の母にたいそう羨ましがられました。樋口先生のお料理教室の開講予定は(おそらく)今のところ未定ですが……樋口先生の料理が学べる教科書ならあります!この本のタイトルは『新しい料理の教科書』ですからね(笑)
樋口直哉
作家、料理家 1981年5月19日、東京都生まれ。 服部栄養専門学校卒業。フランス料理人として活躍しながら2005年、『さよなら アメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、作家としてデビュー。同作は第133回芥川龍之介賞の候補にもなった。主な著書に小説『大人ドロップ』(2014年映画化)『スープの国のお姫様』(ともに小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』『長寿の献立帖』(KADOKAWA)など。自身のTwitter(@naoya_foodlab)やnote(https://note.mu/travelingfoodlab)などで日々レシピを紹介している。現在cakesにて『「おいしい」をつくる料理の新常識』(https://cakes.mu/series/4115)を連載中。

定番の“当たり前”を見直す 新しい料理の教科書
- ページ数:184頁
- ISBN:9784838730247
- 定価:1,540円 (税込)
- 発売:2019.01.17
- ジャンル:料理