パスタマシーンの幽霊(川上 弘美 著)
●内容紹介
一篇が10ページ前後の短篇が22篇収められている。なにしろ川上弘美のこの短篇群の面白さは驚嘆に値する。「おひまなら一篇だけ立ち読みしてみてください」と言うしかないのです。若い女性の一人称の作品が多いけれど、だからといって若い女性向きの作品集とばかりはいえない。そんなことはどうでもよくて、男性が読んでもたぶん心にしみるはず。これぞ川上魔術。表題作の一部をご紹介するのが手っ取り早い。こんな感じです。「このパスタマシーンを使うのは、いったい誰? あたしの胸は、大きく一つ、どきんと打った。『小人じゃないの』というのが隆司の答えだった。/あたしはすぐさま、隆司を問いただしたのだった。料理は下手だけれど、そのかわりあたしはものすごく率直なのだ。ねえ、誰がこのパスタマシーンを使ってるの。『小人』あたしはゆっくりと繰り返した。/『じゃなきゃ、猫とか』『猫』あたしは隆司の顔をまじまじと見た。無表情だ。/『このごろの猫って、ほら、お手伝いさんとかして働くみたいだし』/あたしは笑わなかった。隆司は一瞬だけ笑って、それから『しまった』という表情になった。あたしは率直なうえに、怒りっぽいのだ。」
「クウネル」の人気連載が本になった。絶賛を博した第一弾『ざらざら』につづく最新短篇小説集。今回の短篇も、決然とした恋愛の情熱や欲望ではなく、恋愛関係のうちにある何かとらえどころのない心のゆらめきを魔術的とってもいい文章で描いた傑作ばかり。読み終えたあとに、また本を開きたくなる。おなじみの、アン子とおかまの修三ちゃんも再登場。新たな主人公、誠子さんとコロボックルの山口さんの恋の行方にも注目だ。
深刻な感情がユーモアに転換され、そのあとに〈しん〉とした淋しさが残る名品22篇。
●著者紹介
川上弘美(かわかみ ひろみ)
1958年生まれ。
1996年「蛇を踏む」で芥川賞、
1999年『神様』で紫式部文学賞、
2000年『溺レる』で伊藤整文学賞と女流文学賞、
2001年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、
2007年『真鶴』で芸術選奨を受賞。
他に『龍宮』『光ってみえるもの、あれは』『ニシノユキヒコの恋と冒険』『古道具中野商店』『ざらざら』『風花』『どこから行っても遠い町』など多数。最近作は『これでよろしくて?』