復活への記憶 東北ふるさとのアルバム(マガジンハウス 編)
2011年3月11日14時46分の東日本大震災。当たり前に享受していた日常が、一
瞬にして消滅していきました。あの日から6ヶ月。被災3県、岩手、宮城、福島の
被災前の懐かしい「記憶の風景」が、よみがえります。
日本を襲った未曾有の大地震、そして大津波。連日、抗えない自然の猛威を見
せつけられる映像ばかりが流されて、被災者は打ちのめされ、この映像を見てい
る日本中の人々は、まさに胸のつぶれる思いでした。さらに福島原発事故で安全
神話が崩壊し、日本の発展に役立つはずのエネルギーの存在自体が疑問視されて
います。
元来この地域は日本の食材の宝庫であり、また日本の故郷原風景が広がる場所
でした。この写真集は、こうした震災前の原風景と、人々の力強い農林水産業の
営み、お祭りなどを紹介しています。津波で、家族のアルバムを流されて、途方
にくれている人々も大勢います。読む人に、改めてこの地域の活力と美しさを感
じさせ、何とかこのシーンを取り戻したいという意欲がふつふつと涌いてくるよ
うな内容を目指しています。
一本だけ松が残り「奇跡の松」と呼ばれている陸前高田市の高田松原(たかた
まつばら)は、「一握の砂」を詠んだ歌人・石川啄木も訪れた白砂青松の景勝
地。満月に光り輝く7万本の松林と対照的に被災後の写真も入れました。撮影者
は、今回写真集の監修をお願いしている東北出身の青柳健二さんです。このほか
数箇所ですが、被災後の写真を意識して入れました。現実を照らすことで、昔の
面影が生きることもあるのです。美しい風景の中に哀しい現実があることで、そ
れを受け入れて、再び明日に向かって歩いてほしい、という願いをこめて。
南三陸町志津川の堤防決壊後、防災対策庁舎が押し寄せる津波にのみこまれて
いく写真を高台にある志津川小で撮り続けた写真館主佐藤信一さんには、被災地
の南三陸ホテル観洋を訪ねて、被災前の向日葵の写真をお借りしました。佐藤さ
んは、新聞報道、各テレビ番組で、数多く紹介されましたが、現在も志津川で町
の風景や人々の生活を撮り続けています。
その佐藤さんに紹介された気仙沼の写真館の熊谷孝良さんとは、3度目によう
やくお会いできました。話しているうちに娘さんが、「雲の遥か」などのシン
ガーソングライターの熊谷育美さんだと知りました。育美さんは、震災日地元気
仙沼大使としてテレビの収録中に被災しましたが、避難して助かった時は、「た
だ泣き笑うしかなかった」ことを満月のライブで話していたのが印象的でした。
食や電気といったことを考えざるを得ない日々の暮らし。これまでいかに東北
に恩恵を授かってきたかということが写真から伝わります。被災前の東北の良さ
を、そして目をそらさない現実をほんの少し紹介して、みんなに考えてもらいた
いのです。
序文は、脚本家の内館牧子さんです。「記憶の風景」と題して、東北人に気質
を見事に表現された文章とこの懐かしい記憶の詰まった写真集をご覧ください。
●著者紹介
マガジンハウス編
(写真提供場所:北から順に)
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