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第9話 カピバラと中学受験ヒキコモ・ル・ネサンス


ヒキコモ・ル・ネサンス 山田ルイ53世 著

ヒキコモ・ル・ネサンス
山田ルイ53世 著

中学受験合格で神童に上り詰めた山田少年は、とある事件をきっかけに、引きこもり生活に入ってしまう。そこから、大検に合格して立ち直るものの、失踪、借金生活と、再び負のスパイラルに陥る。が、紆余曲折を経て見事「復活」する。第1章では、引きこもりに至る前の波瀾万丈の神童ライフを辿っていこう。。
 
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第1章 神童の予感

【第9話 カピバラと中学受験】

その時の僕は、みんな地元の公立中学に進学するものだと思っていたし、それが当たり前のことだと思っていた。そもそも、「中学を受験する」という発想がなかったし、そういう私立の学校の存在も知らなかった。
また、学校の通信簿より上のレベルの「勉学の世界」があることも、そんな高みに向かって、同じ年の、クラスメイトが猛勉強しているなんてことも、何もかもが想像もつかないことだった。
とにかく、僕は急にそわそわしだし、何やら膀胱が刺激され、おしっこが漏れそうな感覚に襲われた。焦ったのである。
「へ―……何の宿題? 明日の算数のヤツ!?」
表向きは冷静を装っていた。
覗き込んでみると、それはハ―ドカバ―の立派な赤い表紙の本で、今まで僕が見たことのない難しそうな問題がいっぱい載っていた。算数の問題集だった。僕や他の子達が小学校で使っている、ペラペラの「計算ドリル」などとはまったく違った雰囲気を醸し出していた。
「親しみやすさ」というか、「安さ」が一切なかった。
そう、僕の家になぜかズラッと並んでいた、例の『罪と罰』とか『ファウスト』だとか、彼らの仲間の匂いがした。
細野君自身の手によるものだろう、蛍光ペンで線が引っ張ってあったり、細かく何か書き込みがしてあったり、相当使い込まれている感じが出ていた。
その本に載っている問題は、一問たりとも解けなかった。
(何なんだこれは? この世界は!!)
とてつもない衝撃に襲われていた。何にも知らないで、細野君に偉そうにしていたのが死ぬほど恥ずかしかった。
細野君はほのぼの系の動物、「カピパラ」に似ていて、いわゆる「癒し系」ではあるが、決して男前とかではない。よって、女子にもてるとかでもない。そもそも小六の女子は癒しを求めるほど人生に疲れてもいない。
喧嘩が強いわけでもないし、面白いことも言わない。足が速いわけでもない。
僕の中では、「超脇役」、「エキストラ」だった細野君。
しかし、今、彼のランキングは急上昇し、この時点で、もう尊敬の念さえ抱き始めていた。
ついさっきまで、自分が見下されていたとも知らずに、気のいい細野君は僕が質問するままにいろいろ教えてくれた。
来年、中学受験をするということ。そのために小学校4年生からずっと「日能研」という進学塾に通って勉強して来たこと。第一志望は「甲陽中学」というところで、その他にも、「奈良学園」というところも受験するということ……。
今までの価値観がグラグラと揺さぶられ、自分が酷くつまらない人間に思えた。
正直、初めて聞くことばかりで、何を言っているのか完全には理解できなかったが、僕は「中学受験って格好いい!!」と思った。
たったそれだけの理由で、僕は中学受験をすることに決めたのだった。

 
山田ルイ 53世 山田ルイ 53世
本名 山田順三(やまだ じゅんぞう)。 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。 兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになり中途退学。大検合格を経て、愛媛大学法文学部の夜間コースに入学。その後、大学も中退し上京、芸人の道へ。1999年に髭男爵を結成。2008年頃よりTVにてブレイク。現在は文化放送「ヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX」、「髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」など幅広く活躍中。