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第10話 しょうもない塾ヒキコモ・ル・ネサンス


ヒキコモ・ル・ネサンス 山田ルイ53世 著

ヒキコモ・ル・ネサンス
山田ルイ53世 著

中学受験合格で神童に上り詰めた山田少年は、とある事件をきっかけに、引きこもり生活に入ってしまう。そこから、大検に合格して立ち直るものの、失踪、借金生活と、再び負のスパイラルに陥る。が、紆余曲折を経て見事「復活」する。第1章では、引きこもりに至る前の波瀾万丈の神童ライフを辿っていこう。。
 
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第1章 神童の予感

【第10話 しょうもない塾】

 その日、家に帰ってすぐ、両親に僕の決意を伝えた。
決意といっても、それは、「友達が受験するから」と いう、ペラペラの理由だった。それでは許してもらえないと考えた僕は、別のストーリーを用意しておいた。
実はかなり前から中学受験を考えていたとか、でもお 金がかかりそうなので、迷惑をかけたくなかったから一度は諦めたんだとか……あることないことならいざ知らず、ないことばかりをつらつらと喋った。
すると、意外にもあっさりとお許しが出た。
親にしてみれば、子供が勝手に自分から勉強すると 言っているわけだし、さらにその時、既に6年生の夏頃だったので、もう勉強が間にあうはずがない、時間的に無理だろう。ならば、私立につ きものの「入学金」や「授業料」の心配もない……そんな計算も働いたのだと思う。
 とにかく、親の許可も得て、晴れて中学受験をするこ とにはなったのだが、あの僕の憧れの、赤いハードカバーでお馴染み、「細野君の問題集」で勉強できる、「日能研」には入れなかった。
父に、中学受験をするからには、小学校の勉強だけで は無理だ。塾に行かないと駄目だ。それも、「日能研」というところでないと、お話しにならない。それこそ必死で頼んだ。
父は僕の話を黙って聞いていた。否定も肯定も しない。
こういう時の親の沈黙は、子供にとってとてつ もない恐怖である。
「日能研」の名前が連発されたあたりで、「なぜ、そん なにピンポイントで言ってくるの?」というような怪訝な表情を一度覗かせはしたものの、すぐにその表情も消えた。
それまで僕は、塾というものには行ったことがなかっ た。
そういうところは、学校の成績の悪い、勉強のできな い子が、親に無理矢理行かされるものだと思っていた。
そういう意味では、親に「月謝」などの金銭的な負担を 掛けたことがなかったわけで、さすがにケチな僕の親も、今回は奮発して希望通り、「日能研」に入れてくれるだろうと高をくくっていた。
 父は一言、「任せとけ!」と言った。
甘かった。
数日後、僕が通う塾が決まったと父が言ってきた。父に 連れられて行ったのは、当時、子供の僕が思った通りに書かせてもらうなら、「しょうもない塾」だった。
その塾は、僕の家から歩いて10分くらいのところに あった。
何度も前を通ったことがあるが、そこに塾があるこ とにまったく気が付いていなかった。普通の住宅街である。
正直、父と歩いていて、最初の角を曲がったく らいで、この道の先には日能研は用意されていないと早々に勘付いていた。
ごくごく普通の建売の家。その一階部分の一部屋が教 室になっている。
男の先生が一人。陰気な感じの人で、何年も外に出たこ とがないのか、真っ白な肌をしており、痩せていて、常に病み上がりの様な気だるい雰囲気を漂わせていた。実に頼りない感じだった。
生徒は僕を含めて二人。
おそらく僕と同学年くらいの男の子。
その子は、「中学受験」をするわけでもなく、当然なが ら、受験生特有の「ピリピリ感」もまったくなかった。
先生の親戚の子とかだったのかも知れない。
とにかく、「受験戦争」、「中学受験」、そんな「戦 い」とはまったく縁のない空間だった。
「これは、マズイ……落ちたな」と、初日で絶望した。
 しかし、父の決定は我が家では絶対である。不満を漏 らし、口答えでもしようもんなら、拳骨を食らい、「ここが気に食わんのならもういい!」とすべてを白紙に戻されるだろう。 僕はそれを一番恐れていた。
もう変えることはできない。この塾に通うしかない。 なぜ自分の夢は、いつも48点くらいでしか叶わないのか? 運命を呪ったが、所詮は無力な子供である。従うしかない。
なぜ、父がその塾に決めたのか、はっきりと理由は聞いていないが、十中八九「お金」だろうと思っている。
両親は、僕が合格できると本気では考えていなかった のだろう。どうせ落ちるのに、高額な授業料を払うのは馬鹿らしい、もったいない、そう思ったに違いない。

 
山田ルイ 53世 山田ルイ 53世
本名 山田順三(やまだ じゅんぞう)。 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。 兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになり中途退学。大検合格を経て、愛媛大学法文学部の夜間コースに入学。その後、大学も中退し上京、芸人の道へ。1999年に髭男爵を結成。2008年頃よりTVにてブレイク。現在は文化放送「ヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX」、「髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」など幅広く活躍中。