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第11話 優越感ハイヒキコモ・ル・ネサンス


ヒキコモ・ル・ネサンス 山田ルイ53世 著

ヒキコモ・ル・ネサンス
山田ルイ53世 著

中学受験合格で神童に上り詰めた山田少年は、とある事件をきっかけに、引きこもり生活に入ってしまう。そこから、大検に合格して立ち直るものの、失踪、借金生活と、再び負のスパイラルに陥る。が、紆余曲折を経て見事「復活」する。第1章では、引きこもりに至る前の波瀾万丈の神童ライフを辿っていこう。。
 
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第1章 神童の予感

【第11話 優越感ハイ】

生徒は僕とその親戚っぽい子だけなのは分かっていたので、自明のことだが、僕の小学校の生徒は、誰もその塾に通っていなかった。
通いだしてしばらくしてから、恐る恐る、学校の友達に緊急アンケートを行ったが、誰一人として、本当に一人たりともだが、僕の通い出したその「塾」の存在すら知らなかった。
当時は1学年4、5クラスあったはずだから、小学校全体で結構な数の生徒がいた。
しかし、重ねて言うが、僕の通っていた小学校の生徒は、誰一人その塾に通っていなかった。
今では、あそこが「塾」だったのかすら怪しい。そもそも、その「先生」が、いったいどうやって生計を立てていたのかも謎である。塾の月謝だけでは生活できるはずがないのである。月の頭に、親に渡される封筒の中身を何度か覗いたことがあるので、その辺りのことは知っていた。それほど「お安い」塾だった。
夕暮れ時、塾に行くと、建物の中のどこからか、ご飯の匂いが漂ってくる時があったので、実家だったのかもしれない。
そんなことはさておき、不本意な形ではあるが、僕の中学受験はスタートした。
勉強自体はすこぶる楽しかった。
「細野君の問題集」は、もちろんその塾にはなかったし、オリジナルの教材が何もなかったので、結局、市販されている中学受験用の参考書や問題集を買って、塾に持って行き、先生と一緒に勉強するという、何か釈然としない形ではあったが、とにかく、「ニュ―トン算」とか、「鶴亀算」とか、「流水算」とか、当時小学校ではあまり耳にしたことがない難問の数々、その解き方に取り組んでいるのが楽しかった。
「他の普通の子達がしてないことを、俺はしている!!」……そんな「優越感」で、大量の問題集と格闘する毎日も、まったく苦にはならなかった。
朝、早起きして勉強し、学校に行き、部活のサッカーをやって、塾に行き、家に帰って遅くまでまた勉強……とんでもなく「売れっ子」のスケジュールだ。
睡眠時間も半年間くらいは、平均3時間ほどだったと思う。
一度、学校の健康診断で、尿から「蛋白」が出て、腎臓に問題があるなんて言われたり、急に、「白髪」が増えて頭が真っ白になったこともあった。
お医者さんに診てもらうと、「過労です」と言われた。
それくらい僕は勉強に励んだ。
しかし、何やらそれが「カッコ良い!」と感じるほど、当時の僕はある種の「ゾーン」に入っていた。
あれほどの頑張りを、その後の人生で発揮できたことはない。
「優越感ハイ」とでも言えばいいのだろうか……力の根源は腐っていたが、とにかく毎日が充実していた。
腐った土の方が養分が豊富なのだ。

 
山田ルイ 53世 山田ルイ 53世
本名 山田順三(やまだ じゅんぞう)。 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。 兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになり中途退学。大検合格を経て、愛媛大学法文学部の夜間コースに入学。その後、大学も中退し上京、芸人の道へ。1999年に髭男爵を結成。2008年頃よりTVにてブレイク。現在は文化放送「ヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX」、「髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」など幅広く活躍中。