マガジンワールド

第1回 おまえもがんばれ!


フナヤマの言葉さがし

初めまして、船山と申します。一読者として愛読してきた『クウネル』編集部で働くことになりました。かなり年のいった新人ですが、みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。当コラムでは私が『クウネル』の取材の席で聞いたり、本や雑誌、新聞で読んだりした言葉、忘れられない文章やひと言をぼちぼちと紹介していければいいな、と思っています。

 

第1回
おまえもがんばれ!

最新号では写真家で作家でもある星野博美さんに巻末エッセイを書いていただきました。『転がる香港に苔は生えない』『コンニャク屋漂流記』などの著作のある星野さんは、日々の暮らしをじっと見つめ、そこにある感情のゆらぎや気持ちの行き交いを丁寧にすくい出し、的確な言葉で表現する書き手です。

新刊『戸越銀座でつかまえて』は、40代独身の星野さんが一人暮らしをたたんで、約20年ぶりに自らの故郷、ルーツである東京・品川区の戸越銀座へ戻り、父母と地元で暮らし直し始めた日々を綴ったエッセイ集。懐かしい東京下町の風景、失われたものも多いけれど、変わっていない近所の商店街の活気や、20年分年を重ねた自分と家族の関係が活写されて、お勧めしたい1冊です。

その中のエピソードです。星野さんは戻った地元の商店街の総菜屋さんでかれこれ35年くらい働き続けている「おばさん」に再会します。小さな店に立ち、星野さんが小さいときからずっと、笑顔でてんぷらや焼き鳥を売り続けてきた女性。彼女を見て星野さんはこう感じます。

「世の中には不正と不平等がはびこり、希望なんてどこにあるのか、と思いたくなってしまうことはよくある。そんな時商店街を歩くと、彼女の姿が目に入る。そして『四の五の言わずに、おまえもがんばれ』と言われているような気がする。(中略)彼女は私の、大切な彼女なのだ」

淡々と誠実に35年間お総菜を売り続ける人。力を惜しまず仕事を大切にする人。「彼女がどんな人かは知らないし、向こうも私のことを知らない」けれど、そんな人の変わらない仕事ぶりに励まされ、自分を叱咤する。明日からまたちゃんと働こうと思う。いいなぁ、素敵だなぁ。私もがんばらなくちゃ、と背中を押してもらった文章でした。