第2回 アキ・カウリスマキ監督のことば
フナヤマの言葉さがし
初めまして、船山と申します。一読者として愛読してきた『クウネル』編集部で働くことになりました。かなり年のいった新人ですが、みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。当コラムでは私が『クウネル』の取材の席で聞いたり、本や雑誌、新聞で読んだりした言葉、忘れられない文章やひと言をぼちぼちと紹介していければいいな、と思っています。
第2回
アキ・カウリスマキ監督のことば
2014年が明けて、今年も『クウネル』のご愛読、よろしくお願いいたします。
これからの一年がどんな年になるのか、自分自身どう進んでいったらいいのかを考えたりする年の始め。繰り返し思い出すのが、『レニングランド・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』や『マッチ工場の少女』などの作品で知られるフィンランドの映画監督、アキ・カウリスマキ監督のことば。だいぶん旧聞になりますが、それはこんな内容です。
2002年のニューヨーク映画祭に招かれていた、イランのアッバス・キアロスタミ監督とカウリスマキ監督。『友だちのうちはどこ?』や『桜桃の味』で世界的に評価の高いキアロスタミ監督は同時多発テロの影響でアメリカ政府からビザを発給されず、入国も許可されませんでした。その報を聞いたカウリスマキ監督も同映画祭への参加をボイコットし、次のような発言をしました。
「世界中で最も平和を希求する人物の一人であるキアロスタミ監督にイラン人だからビザが出ないと聞き、深い哀しみを覚える。石油すらもっていないフィンランド人はもっと不要だろう。米国防長官は我が国でキノコ狩りでもして気を鎮めたらどうか。世界の文化の交換が妨害されたら何が残る? 武器の交換か?」
テロ事件で過剰にぴりぴりとしている政治家にキノコ狩り(!)でもしてもっと冷静になろうよ、と声をかけるオフビートな感覚。石油より、武器より、文化の交流がいかに大切か……言うべきことは言い、するべきことはちゃんとして、だけどユーモアの精神はいつも忘れない。新聞でこの文章を最初に読んだときは、カウリスマキ監督にいつまでもついていく! と心に誓ったものです。何度読んでも素晴らしい。
監督のこういうセンスを見習いながら、今年も暮らしていけたらいいな、と思っているのです。