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第1話 姑息な朝顔のつる ヒキコモ・ル・ネサンス


ヒキコモ・ル・ネサンス 山田ルイ53世 著

ヒキコモ・ル・ネサンス
山田ルイ53世 著

中学受験合格で神童に上り詰めた山田少年は、とある事件をきっかけに、引きこもり生活に入ってしまう。そこから、大検に合格して立ち直るものの、失踪、借金生活と、再び負のスパイラルに陥る。が、紆余曲折を経て見事「復活」する。第1章では、引きこもりに至る前の波瀾万丈の神童ライフを辿っていこう。。
 

第1章 神童の予感

【第1話 姑息な朝顔のつる】

小さな頃は、後々「引きこもり」になるなんて想像もつかない、活発でやんちゃな子供で、よく度が過ぎたいたずらをやらかしては、親が先生に呼び出されたりしていた。
 
単純に、誕生日が4月で、いわゆる遅生まれだったからだろうが、小学生低学年くらいまでは、図体もでかい方で、同級生の間でも一目置かれていた。恐れられるというよりは、頼られる感じで、僕も僕で悪い気はしていなかったのだろう、何かにつけて、他の子の面倒をみたりしていた。
幼稚園の時なんかも、トイレに行けない子がいると、手を引いて連れて行ってあげたり、落し物を一緒に探してあげたり、泣いている子がいると職員室に誰かを呼びに行ったり……そういう兄貴的振る舞いを先生も見ていたのだろう。
ある時、級長に任命された。
級長は、先生から渡された、サクランボの形をした、ボンボンを胸元につける。
大人からの信頼の証である。
 
夏休みに入る少し前、みんなで朝顔の種をまいた。
園児一人に一鉢、“朝顔”を育てさせる。
自分の朝顔は責任を持って世話をしなければならない。
僕も、皆と同じように、キチンと水をやり世話をした。
にもかかわらず、僕の朝顔だけ大きくならなかった。
他の子の朝顔は順調に大きく育っていく。
ふたばが出て、“本葉”が出て来る。気が早いのは、つるが少し出始めているものもあった。
なのに、僕の朝顔は、小さな小さなふたばが出たのを最後に、それ以上まったく大きくならなかった。
そうこうするうちに夏休みに入った。何日かある“登校日”の度に様子を見てみるのだが、僕の朝顔の上にだけは、時間が流れていないかのように、何の変化も見られない。
僕には何の落ち度もなかったはずだ。単純に種の当たり外れだろう。だが、現実にこれだけの差が出ているのだ。
(なぜ、自分だけがこんな目に……)
人生とはなんて理不尽なんだ。これを解決するには、もう実力行使しかない。
僕は幼稚園に忍び込んだ。
 
朝顔は、各教室のべランダにズラっと並べられていた。
教室とベランダは大きな“掃き出し窓”で隔てられている。夏休み中なので、そのガラス戸は、というより、教室のドアも何もかも、すべて施錠されていた。つまり正規の侵入ルートはない。
僕のクラス、「バラ組」の教室は二階にあった。しかし、都合良く、バラ組のベランダすれすれに大きな木が生えており、それをよじ登って、ベランダに飛び移れることを僕は知っていた。
無事ベランダに降り立ち、周りをうかがうと、僕の朝顔は、相も変わらず、貧相な“ふたば”止まりの姿でそこにあった。
せめて、枯れてなくなってしまえばせいせいするのだが、空気も読まずに、ふたばのまま青々としている。まったくもって忌々しいヤツだ。
「僕は元々こういう種類ですけど?」といわんばかりに、開き直った様子の僕の“ふたば”。隣の鉢を見ると、土に刺された三本の支柱に、しっかりとのびた“ツル”を絡ませた素晴らしい朝顔がある。
他の子の朝顔と比べても、それが一番大きく育っているように見えた。
 
僕は、そのNo.1朝顔を慎重に引き抜いて、自分の鉢に植え、かわりに、貧相なふたばをその隣の鉢に植え替えた。
 
それからしばらくして、また登校日がやって来た。
久しぶりに会った友達と、夏休み中の出来事を報告し合う。
それらが一段落して、子供達が落ち着くのを見計らって、先生が「お話があります」と言って、子供達を集めた。
その先生は、若い女の人で、幼稚園の先生になりたてではあるが、とても熱心な先生だと、親達の評判もとても良かった。
その先生の隣では、女の子が一人泣いていた。
僕にはすぐに分かった。この泣いている女の子は、先日、僕が行った朝顔のトレード、その相手に違いない。
しかし僕は、先日自分が手を染めたあの悪事がばれるとは、毛ほども考えてはいなかった。
女の子の頭に優しく手を置きながら、体育座りをした子供達を前に、先生が話し始める。
「○○ちゃんの朝顔が、突然小さくなってしまいました……皆さん、どう思いますか?」
えっ? ちいさくなった? どういうこと?
ざわざわと戸惑う周りの子供達を、慎重に観察しながら、自分が浮かないように、リアクションの温度調節をしながら、僕は、「えらいストレートに聞いて来たな!」などと思っていた。
我ながら、姑息なガキである。
ふと先生を見ると、
「バチーーーーーン!」と衝突音がしたかと思ったくらい、しっかり先生と目が合った。
再び先生が、「皆さん、どう思いますか?」と呼びかけた。
勘違いではない。「皆さん」と言いながら、先生は僕のことしか見ていなかった。“ロックオン”されている。ばれた。
往生際の悪い僕は、まだ、「なんでそんな不思議なことが起こったのかな?っていうか、○○ちゃんかわいそうだね!?」的な“表情”を浮かべ、しらばっくれていた。
すると先生、今度は、「山田君は、どう思いますか?」
包囲網が狭まって行く。
周りの子達は、おそらく、「サクランボの級長さんだから、先生は山田君に聞いているんだ」なんて思っていたに違いない。
 
答えに窮して、往生際悪く、「キョトーン」の芝居を続ける僕に、先生は、
「山田君の朝顔は、急に大きくなりました……どう思いますか?」
その若い女の先生は、一縷の望みを託して、この質問をしたのだろう。次の瞬間、始まる感動のシーン。
子供らしく、泣きながら全てを白状する山田君。それを、寛大な心で許し、何か子供達のその後の人生に影響を与えるような、心に刻み込まれるような「メッセ―ジ」を伝える自分。他の子供達からの拍手。めでたしめでたし……しかし、現実は違う。
子供は嘘をつく。特にこの姑息なガキは。
現実の世界では、大人の方が単純で、メルヘンチックであり、子供の方が複雑で、リアリストなのだ。
先生の目は語っていた。
「お願い!! 山田君、お願いだから、自分から言って。先生をガッカリさせないで。先生、信じてるよ……お願い!」
僕は答えた。
「分かりません」
急速に、先生の目から光が失われていくのが分かった。
情熱を持って幼稚園の先生になり、つい先程まで、子供に注がれていた、熱く優しい眼差しが、キンキンに冷えたガラス玉のような目になってしまった。
そもそも、たまの登校日にしかやってこない子供達の朝顔が、枯れもせず、順調に育っていたのか。もちろん、先生が世話をしていたからである。
その若くて、情熱溢れる先生は、毎日のように自主的に幼稚園に来て、朝顔の世話をし、観察し、こまめに記録まで付けていたのだ。
そしてある日、1人の園児の朝顔が急激に巨大化し、もう1人の朝顔は、時間を巻き戻したかのように小さくなっているのを目撃する。
今まで、自然界で確認されたことのない、学会でも報告されていない超自然現象が、自分の職場で確認されたのだ。
さぞ、驚いたことだろう。
もちろんそれは、世紀の科学的大発見にではなく、純真無垢だと信じていた子供のえげつない発想と手口にだ。
結局、その場では、それ以上の“追及”はなかった。
が、その後すぐに職員室に呼び出された。
無言でしばらく僕を見つめたあと、先生は、僕の胸の「サクランボ」をむしりとった。
糸でしっかり縫いつけてあったので、「ブチ―ン!!」という派手な音がした。
「分かるよね? 山田君にこれを付ける資格はありません!!」
姑息なヤツは失敗する。

 
山田ルイ 53世 山田ルイ 53世
本名 山田順三(やまだ じゅんぞう)。 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。 兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになり中途退学。大検合格を経て、愛媛大学法文学部の夜間コースに入学。その後、大学も中退し上京、芸人の道へ。1999年に髭男爵を結成。2008年頃よりTVにてブレイク。現在は文化放送「ヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX」、「髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」など幅広く活躍中。