第14回大賞受賞 『名もない花なんてものはない』
卯月 イツカ
第14回大賞受賞 『名もない花なんてものはない』
卯月 イツカ
高校二年生の千花は、隣のクラスの山崎の力を借りて、幼虫を救出する。これをきっかけに山崎に惹かれていく千花。作品は、千花と友だちのナオ、小夜子、そして山崎との交流を描いていく。そして、文化祭が近づいたある日、千花は山崎から、小夜子が気になっていると告げられ、ショックのあまり学校を休んでしまう。ひと夏の女子高生の心の動きを描いた作品。「第14回坊っちゃん文学賞」大賞受賞。選考会では以下のように評された。「作者は自分の高校生の頃の感覚を思い出しながら、この作品を書いています。自転車のスポークにアゲハの幼虫が挟まっていた、という出だしのシーンはとてもみずみずしいものです。心の地層の様子が手に取るように見えます」「女子高生たちの友情物語。時代を超えて共感できる。女の子たちの繊細な感受性が描かれていた」
「第14回坊っちゃん文学賞」大賞受賞作。電子書籍として2016年6月に刊行。
卯月イツカ
うづき いつか
受賞の言葉
卯月イツカ
人前で自分の考えを発表することや、意見を求められるのが苦手だ。よどみなく話せる人を見ると、心底うらやましい。自分の考えにふける癖のある私は、人の話をきちんと聞いていないだとか、とんちんかんな受け答えをしがちだ。相手の失望したような顔を見ると、申し訳なさに消えてしまいたくなることもある。くだらない冗談なら上手く言えるのだから、自分をよく見せようとしすぎるのかもしれない。
私の「口からこぼれた言葉」は、離れるにしたがってゆっくりその体温を失って、たいてい正しくは相手の元に届かない。私はその「言葉」を回収してやることも出来ず、肩を落とすことになる。対して「書く言葉」は、急かされず邪魔されず、間違っていたら直すことも出来る。それでさえ誰にも届かないことはあるが、少なくとも形に残るので何度も確かめられるし、時を経てそこに違う意味を見出すことすらあるだろう。
私は書くことが好きだ。口ではうまく伝えられない思いも、文章なら届きそうな気がする。今回の作品には厳しい評価も頂いたが、ペシミストな私にはそれくらいがちょうどいい。植物も、甘やかされ過ぎては花も実もつけないというではないか。
私の青い時代はけして華やかなものではなかった。多くの痛みと、泥臭い失敗に彩られていた。登場人物には、そんな自身が投影されている。私がこの作品に込めた思いの一かけらでもいい、一人でも多くの人に伝わることを願う。
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夏目漱石の代表作『坊っちゃん』の舞台として知られる松山市が、市制100周年の1989年に創設したのが「坊っちゃん文学賞」。新しい青春文学の誕生と、フレッシュな才能に期待したこの賞は、これまでに13回が開催され、多くの作品が世に送り出されてきました。今回、この「坊っちゃん文学賞」大賞作品が電子書籍化されました。第1回の大賞作品から最新作まで、多くの作品がお読みいただけます。