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作家インタビュー 女子高生の繊細な感受性を表現
第14回大賞受賞、卯月イツカさん

坊っちゃん文学賞

作家インタビュー 女子高生の繊細な感受性を表現
第14回大賞受賞、卯月イツカさん

卯月イツカさん

人との関わり方が不器用で、祖父譲りの虫や花への愛着豊かな高校2年生の女の子。夏から秋にかけての彼女の日々、芽生えた淡い恋心と日常と非日常が静かに交錯する物語『名もない花なんてものはない』で「第14回坊っちゃん文学賞」大賞を受賞したのは、大阪在住の卯月イツカさん(40)。仕事と育児と執筆をどのように成立させ、この作品の誕生へとたどり着いたのだろうか。

大切なのは1つ1つの場面

—冒頭の芋虫が自転車に挟まったシーンは印象的でした。

あれは、高校時代に私が実際に目にした出来事なんです。アゲハの幼虫ではなかったんですが、同級生の女の子の自転車のスポークに芋虫が挟まって「どうしよう」って。そんな出来事から物語を始めたら面白いかな、と考えて書きました。

—今回の物語はどのようにして作り上げたのでしょうか?

「坊っちゃん文学賞」は青春ものがよい、という情報がありましたので、高校生を中心に、その友だちが出て来る物語にしよう、ということだけ決めて書き始めました。あとは、自分の高校時代にあったような出来事をヒントにしながら話を進めていく感じですね。
私はもともとプロットをしっかり組み立ててから書くタイプではないんです。まず考えておくのは、登場人物の性格。こういう性格の人であればどういうような行動をとるということをしっかりと考えておくと、あとはストーリーが勝手に動いていくような感じで進んでいきます。

—ということは、結末がどういう風にまとまるのか自分でも分からないまま書き始める?

分からないんです、自分でも。物語を順番に書いていくというよりも、一つ一つの場面をまず書いていきます。場面がとても大事で、今回の作品でいえば、芋虫が自転車に挟まったシーンであったり、最後の辺りのツユクサを摘もうとした主人公とおじいちゃんとの思い出のシーンであったり。そうした場面をまず書いて、つながりは後から付けていくという感じです。昔からそういうスタイルで書いていました。

卯月イツカさん

3カ月で100枚ならば、と挑戦を決意

—小説はいつ頃から書き始めていましたか?

若い頃からなんとなく書き始めてはいたんですが、完成させた作品はほとんどありませんでした。子どもの頃から本がとにかく大好きで、童話のまねごとを書いてみたこともありましたし、高校時代も友だちと一緒に書いてみては飽きて途中でやめたり、という感じで。大学の卒論の形式が自由だったので、小説を書くことにしました。それが、初めて完成させた作品ですね。どんな内容を書いたのかはもう忘れてしまいましたが(笑)。
その後は就職や子育てに忙しくて、再び書き始めたのは、ここ5年くらいのことなんです。ちゃんと書いてみよう、と思い立ち、当時プロレスに興味があったので、タイガーマスクを題材にして200枚くらいの作品を書き上げました。書いた後は気分が高揚していて、もっと書きたくなりまして。色々調べたところ、「坊っちゃん文学賞」がちょうど3か月後に〆切だと知り、100枚であれば間に合うかな、と思って挑戦してみることにしました。

—実際に書き上げてみての手応えは?

かなり〆切ギリギリになってしまい、本当に間に合うのか!?という感じになっていたので、書き上げたときは、「終わったー!」という達成感で一杯でしたね。大賞は取れないまでも、最終選考の8名には残れるようなものは書けたかな、という手応えでした。とはいえ、実際に最終選考に残ったという連絡を頂いた時は、ビックリしましたよね。松山に実際に招待していただけるのが、何より嬉しかったです。主婦生活を送っている私には、一人で遠くに出かけるということがまずないことでしたし、選考委員の先生たちと直接やり取りしてアドバイスを頂けるというのもいい経験でした。賞をもらえなくても、松山に行けるだけで十分なぐらい嬉しかったです。

—先生がたからはどんなアドバイスを?

早坂先生からは、「もうちょっと何かが起こるような話にすれば良かったのに」と。「僕だったら、新種の蝶を見つけてね、でもその手柄を悪い先生が横取りしようとする、そこから話を膨らませていくけどな……」って。なるほど、そういう発想があるのかーって。

—早坂先生の場合は、脚本家ということもあり、どんな映像が立ち現れて来るか、というところに面白さを感じるのでしょうね。

そうなんですね。他にも、「暗い話にしなくても良かったんじゃないか」など、忌憚なくいろいろな意見を聞くことができました。若干、厳しい評価もありましたけれど、自分でも、これが大賞を受賞できる作品かというと微妙だな、と思っていたので、その厳しい言葉にも、何となく納得しています(笑)。

作品を書き続けるということ

卯月イツカさん
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—次の作品づくりは進んでいますか?

今、一場面だけは出来上がっているんですが、まだ、そこに至るまでのいろんなところをどうしようかな、と考えているところです。完成にはまだ時間がかかりそうです。短い作品などは、これまでもちょこちょこと書き上げて公募ガイドなどに出してはいますが。

—毎日、時間を決めて書くのですか?

一日に一行でも書くようにはしていますが、時間を決めて机に座る、ということはしていません。でも、一日に一行しか書けなくても、それを毎日続けていくことが大切だと思っています。継続していけば、いつかは必ず文章になって形になっていくはずですから。
あとは、忙しくても必ず本は読んでいます。インプットあってのアウトプットですから。読む本のジャンルにこだわりはありません。田辺聖子さんや伊坂幸太郎さんような軽い文章も好んで読みますし、かちっとした文章の中島敦さんなども好きですね。本を読むことで、気持ちが落ち着く、ということもあります。気分が落ち込んだ時や辛い時は、活字の世界に没頭することで気持ちを切り替えるようにしています。

—こんな作品が書きたいという思いはありますか?

自分では意識していなかったのですが、これまでの作品は、周囲とあまりうまく関われない人が出て来る話が多かったんですね。そういう人が、自分のそういった特質を最終的には認めていくようになる、というような話ばかり。ですので、もっと色々なお話を書けるようになりたいです。
まだ次回作の完成が見えていない状態ではありますが、絶え間なく書き続けられる作家になりたいですね。審査委員の先生たちも次回作への期待を込めてくださっているのを感じました。「坊っちゃん文学賞」によって得たものを次へとつなげていきたいです。

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■卯月イツカ プロフィール(うづき・いつか)1975年、大阪府出身。大阪教育大学教育学部教養学科卒業。出産のために退職後、子育てのかたわら創作活動を始める。大阪在住