第12話 神童の予感ヒキコモ・ル・ネサンス
ヒキコモ・ル・ネサンス
山田ルイ53世 著
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第1章 神童の予感
【第12話 神童の予感】
2、3か月もすると、中学入試レベルの問題も大方スラスラ解けるようになった。しかし問題もあった。
ややこしい話だが、算数や国語の「問題」のことではない。
それは、先生が解けない問題も僕が解けるようになったというか、先生よりも早く、いろんな問題が解けるようになってしまったのである。
細野君が通っている塾では、起こり得ない事態だろう。だが、ここではそれが起こるのである。
最初は鼻差だった。
例えば、算数の図形の問題で、補助線の引き方が分からなくて、
「先生、この問題どうやるんですか!?」と質問する。
すると、先生がもっともらしい感じで手を後ろに組んで僕の横にやってくる。
「どれどれ……」なんて、これまたもっともらしく考え始める。すると、その矢先に、もう僕が分かって、問題を解いてしまう。
これがドンドン酷くなり、最初は鼻差だったのが、一馬身二馬身と離れていき、しまいには先生は出走すらしなくなっていった。
勉強の成果が出ているということだろうが、これはこれで辛いものがある。先生という「大人」に、恥をかかせたくないのである。誰かが恥をかいているのを見て、ヒヤヒヤしたくないのである。
これは、先生のことを考えて……というより、自分が先に分かってしまったことを先生に気付かれて、気まずくなったら、結果、「自分が嫌だ!!」という、あくまでこちら側の理由ではあるが。
なので、先生が正解を思いつく時間を稼ぐために、尿意もないのにトイレに行ったりしていた。
時には、先生が得意げに解き方を教えてくるのだが、実はそれは間違った方向で、それでは正解にたどりつけない。なぜそれが分かるのか。それは、僕がすでに正解にたどりついているから……そんな状況も発生する。
そういう時は、
「ありがとうございます!! もう大丈夫です!!」と言って、先生が離れた隙に正しく問題を解く。
大人とは偉いもので、明らかに自分が熱弁した「解き方」や「答え」ではないと先生も分かっているはずなのだが、そういう時は何も言わなかった。「なっ? 解けただろ?」というおもむき。スル―である。
受験勉強に関係のない気遣いを強いられていた。
当時は、「余計なことに時間と労力を使わされている……」と被害者意識が凄かったが、あれはなにかの斬新な勉強法だったのでは? と今では思っている。
というのも、周囲の予想に反して、兵庫県では有名な、私立の六甲学院中学に見事合格したのだ。
僕自身も、短い期間で、しかも、言っちゃ悪いが、「あの塾」で合格したのである。我ながら「凄いんじゃないか!」と思っていた。
極めつけは、塾の先生のテンションが上ってしまい、今考えるとこっぱずかしい話ではあるが、「君も山田君みたいになれる!! 目指せ、中学受験!!」なんて書いたビラを町中に撒き始めたことだ。
小さな町でのこと。その界隈では、「中学受験に合格した子」として、僕はちょっとした有名人になった。
そこで僕の中に、「神童感」が生まれる。
俺は何でもできる、特別な人間だ! 選ばれし存在!!
この「神童感」のせいで、人生の節目節目で、ことごとく失敗することになる。
本名 山田順三(やまだ じゅんぞう)。 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。 兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになり中途退学。大検合格を経て、愛媛大学法文学部の夜間コースに入学。その後、大学も中退し上京、芸人の道へ。1999年に髭男爵を結成。2008年頃よりTVにてブレイク。現在は文化放送「ヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX」、「髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」など幅広く活躍中。