第2話 産地偽装の詩ヒキコモ・ル・ネサンス
ヒキコモ・ル・ネサンス
山田ルイ53世 著
第1章 神童の予感
【第2話 産地偽装の詩】
小学校2年生の時。
国語の宿題で書いた「詩」が、地元新聞に取り上げられた。
それは、「小さな目」という欄で、「子供ならではのまっすぐな目線で“紡がれた”文章や詩を紹介する」という趣旨のコーナーだったと思う。
地方紙とは言え、僕の住んでいた町では、大体、どの家庭でも取っているような新聞だったので、自分の子供の作品が載って、親も大いにテンションが上ったようだった。
その証拠に、僕の詩が掲載された新聞を、綺麗に切り抜き、ご丁寧に白い厚紙の台紙に張って、さらには、わざわざ“額”まで買ってきて、家の玄関に飾っていた。
来客の目に付くように。
なかなかキュートな親である。
「何をそんなに大袈裟に言うとんねん!?」と言われそうだが、僕の住んでいた「平凡な地方の街=田舎」において、新聞に載るというのは、それほどの大手柄だったのである。
学校では、朝礼の時に、教頭先生に名指しで褒められたり、近所のおばちゃんからは、
「順くん(僕のこと)はほんまえらい子やねー! うちの○○にも読ませたわー!!」
などと言われたりした。
狙い通りだった。
すべては計算ずくだった。
まず第一に……僕は知っていた。
というのも、家が近所で、よく遊んでもらっていた上級生のお兄さんから、
「この時期に出る、国語の詩の宿題は、新聞社に送られて、出来の良い作品は新聞に掲載される」という情報を入手していた。
そして何より、件の詩の宿題を出した時の先生の醸し出しているニュアンスが気になっていた。
〆切の厳守であるとか、書式、文字数の制限であるとか、いつになく、くどくどと説明をしているのだが、そこに、ただならぬ雰囲気……そう、なにかしらの「コンペ感」がプンプン漂っていたのである。
先生は随分「大根」だったようだ。
とにかく、僕はそれを敏感に嗅ぎ取ったのである。
「これは、いつもの宿題ではない」
そう確信した僕は、全力で獲りに行ったのである。
しかし、なぜ小学校2年生の自分がそんなにも新聞に載りたかったのか?
たまたま何かで目にした新聞記事に、アンモナイトか恐竜の歯か忘れたが、何かその手の「化石」を発見した少年の話が載っていたのだ。自分と同じような年齢の小学生が、新聞に載っている。そしてそれを周りの大人が手放しで褒めている。羨ましかったのだ。
本来なら、自分と変わらない年齢の子供が、独学で恐竜や、化石のことを勉強し、それを発掘するに至った、その情熱の方に刺激されるべきなのに、「新聞に載った」という部分にのみ感化されてしまったのである。
すべてを知った上で考えた。
「どのようなテーマが大人ウケするのだろう?」、「どんなワードを使えば小学生っぽく見えるだろう?」
大体、「っぽく」もなにも、正真正銘の小学生だったのだが。
書いては消し、書いては消しを繰り返した。
「駄目だ駄目だ……大人達は少し足りない感じを好むはずだ……言い過ぎちゃ駄目だ!!」
「もっと、子供らしい舌っ足らずな感じを出すんだ!!」
そんなやらしい計算の元に出来上がった詩が新聞に載った。
親も、学校の先生も、新聞社の大人達も、そして、もちろん、それを読んだ人達も、
「素朴で、子供らしくて良い詩だなー!」とか、
「この作者の子は、とっても優しい子なんだなー!!」などと思っただろう。
しかし、大人達が舌鼓を打って召し上った、「天然物の子供らしさ」は、その実、偽物の、意図的につくられた養殖物だった。
「産地偽装」である。
本名 山田順三(やまだ じゅんぞう)。 お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。 兵庫県出身。地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになり中途退学。大検合格を経て、愛媛大学法文学部の夜間コースに入学。その後、大学も中退し上京、芸人の道へ。1999年に髭男爵を結成。2008年頃よりTVにてブレイク。現在は文化放送「ヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX」、「髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」など幅広く活躍中。