第26回 暗がりに灯る。
コロポックルの小屋
クウネル編集部の塚越です。人より多少サイズが小さいため、コロポックル系に属しています。目線も若干低いので、世界が広く見えて仕方ありません。ここでは、そんな重心低めな目線で見た毎日をお伝えしたいと思います。
第26回
暗がりに灯る。
朝3時半。
朝といってよいのでしょうか。ある人はまだ眠りにすらついていない、月はまだ頭上高くに上がっている。そんな暗いうちから、パン屋さんの仕事は始まります。
今回、取材でお邪魔した岡山県真庭市にある『パン屋タルマーリー』。その仕事の全容を知るために、1日の作業が始まる時間に合わせて工房に伺いました。お店のある商店街はしんと静まり返り、うっすらと霜が降りた道路は街灯の光を受けて、きらきらと光って見えます。吐く息は白く見え、あたりはまだ真っ暗。その中で、たった1軒、灯りがついている。その光景はなんとも温かいものでした。
工房の中では、前日仕込んだパン生地がぷっくりいい具合に膨らんでいる。「早くパンにしておくれ〜」と、成形されるのを待っているのです。それを確認したご主人の渡邉格(いたる)さん、「はいはい、お待たせ」とばかりに見事な手さばきでひとつひとつ「パン」にしていきます。打ち粉がふわりと宙を舞い、次々にいろいろな形のパンが並んでいく。その様子はまるで手品のようで、つかの間、工場見学に興奮した小学生に戻ったような気分でした。
朝10時。待ちかねたお客さんが開店と同時に店にやってきます。焼きたてのパンを2つ3つと買っていく。「ああ、いい匂い」。そう言って、大事そうに胸に抱えて帰る後ろ姿を見て、ご主人も満足そうです。3時半からの作業が実を結ぶ瞬間。この一瞬のために明日も夜明け前からパンを焼くのです。
よろこんで買ってくれる人がいる、待っていてくれる人がいる。その人たちのために一生懸命にものをつくる。まじめに。シンプルに。「ものづくり」って、「働く」ってそういうことだよなあ。そんなことを、改めて思い知った12月吉日なのでした。