第34回 岡山 へ。
コロポックルの小屋
クウネル編集部の塚越です。人より多少サイズが小さいため、コロポックル系に属しています。目線も若干低いので、世界が広く見えて仕方ありません。ここでは、そんな重心低めな目線で見た毎日をお伝えしたいと思います。
第34回
岡山へ。
4月です。町をゆく新入生、新社会人の姿が、若葉とともに目に眩しく映る季節です。ぶかぶかの制服、スーツ姿のぎこちなさ。まだ固そうな新品の革かばんも初々しい。ああ、なんてフレッシュ!
一方その頃、勤続20年を超える私はというと、相も変わらず連日取材に走り回り、髪は乱れ放題、肌はくすむわ、腰は痛いわ、白目は濁るわ、劣化すること雨ざらしの自転車のごとしな日々なわけです。フレッシュ? なあに、フレッシュって? その意味さえ遠のく日常にボヤキがちであった昨今、岡山へ取材に出かける機会に恵まれました。
睡眠不足のまま迎えた出張当日、それまでの不安定な天候が嘘のように、晴れ渡りました。岡山空港の桃太郎の人形も、いつにも増して勇ましく、パッカリ割れた桃のかたちも誇らしく見える晴天です。取材先へは車で小一時間。空港を一歩出れば、そこには春の日本の原風景が広がっていました。新緑に萌える山々と菜の花畑、滔々と流れる清らかな川……。民家の軒先には洗濯物がはためいて、道路沿いには白や紫の野の花が健気に咲いている。それらを眺めながらのドライブに、頭の中では『世界の車窓から』のテーマソングが止まりません。
きっと仕事でなかったら、一生訪れることのなかった土地。今回も、もしかするとそんな場所のひとつだったかもしれません。ちっぽけな“自分”の範疇では到底行くことが叶わなかった場所に、“仕事”が連れてきてくれた。そう思うと、この仕事をしていて本当に良かったと、なんて自分はラッキーなんだと感じずにはいられませんでした。
金属疲労ならぬ“勤続疲労”を痛感していた私ですが、帰りの飛行機に乗る頃にはすっかりリフレッシュ。疾風のごとく過ぎ去る毎日をボヤく前に、感謝の心と謙虚な気持ち! 己に足りないものを確認し、「また来るわ」と桃太郎に別れを告げて、帰路についたのでありました。
誰に会いに行ったかは、どうぞ次号をお待ちください。このひとに会えたことも、たいへんなご褒美でありました! 神様、ありがとう!