第37回 笑う門には。
コロポックルの小屋
クウネル編集部の塚越です。人より多少サイズが小さいため、コロポックル系に属しています。目線も若干低いので、世界が広く見えて仕方ありません。ここでは、そんな重心低めな目線で見た毎日をお伝えしたいと思います。
第37回
笑う門には。
「困った時には神頼み」を得意とするわたくし。拝み慣れた神社が地元にございます。800有余年の歴史を持つその神社は、町の鎮守様。幼い頃から、人生の岐路、例えば受験必勝祈願などはもちろん、「運動会でコケませんように」とか、「チェッカーズのライブチケットが当たりますように」とか、どう考えても神様的に優先順位の低そうなお願いを数々してまいりました。そして不思議なくらい、それを端から叶えてもらってきたのでした。ですから、信頼度の高さといったら大変なものです。初詣もほかの神社仏閣を差し置いて最初に行きます。お賽銭も10割増しではずみます。それほど、頼りにしている神社なのです。
その神社で、初詣以来9ヶ月ぶりにおみくじを引きました。「いざ、ご神託を!」。ガッシャガッシャと箱の中を右手でかき混ぜ、ビシーッと1枚引き当てたるその結果は……、「小吉」。地味。地味すぎます。全体的に当たり障りのない内容です。
「待ち人、来る。気を長く待て」(待ちくたびれたっつうの)。
「願い事、叶うには山あり谷あり。辛抱第一」。(そりゃそうでしょう)。
「失せ物、出る、高いところ」(どこだよ、それ)。
けれど、おみくじの裏に書かれた文言を目にした時に、これを伝えるべく、神様はこの札を握らせたのだなあと思ったのでした。
「笑う門には幸い来る。ねてもさめてもにこにこと」
どんなに辛いことがあっても、つとめて笑っていなさい。とがった声やしかめ面は周囲も自分の心も暗くする。努力をしてでも、いつでも笑顔でいることが、まわりを明るく、自分をもほがらかにするのだと書いてありました。これには、グッと来ました。ああ、本当にその通りだなあと。
取材で出かけた先で、どれだけ多くの笑顔に救われてきたことか。初対面なのにご自宅に上がり込んで、鍋の中、食器棚の奥まで覗かせていただいた『郷土料理』企画。ずうずうしくも、台所の引き出しや冷蔵庫を容赦なく開けて、まるごと見せていただいた『料理上手の台所』企画。どんなページもこの調子で、「はじめまして」にも関わらず、あれも見せてください、これも教えてください、というのが取材現場の常でした。そのしつこさたるや、自分が取材相手だったら辟易とするだろうなというほどの粘り腰。そんな取材班を「こんなところまで取材するんですね〜」と鷹揚に受け入れてくださった皆様の笑顔が、どんなに心強く、ありがたかったかしれません。
そして、毎号寄せられる読者のみなさんからのお便り。叱咤のご意見ももちろんありますが、「楽しかった」「おもしろかった」と、その理由まで丁寧に書いてくださる方もとても多く、几帳面に並んだ文字の向こうに、たくさんの笑顔が見えるようで、それが私の、編集部の、全スタッフの何よりの励みでした。直接見ることは出来ないけれど、読者のみなさんのあたたかい笑顔に何度も勇気づけられ、時に涙し、前を向く力をもらいました。
クウネルは1号おやすみをいただきます。それに伴い、わたくしめもこの小屋からお引っ越し。クウネルを卒業し、しばし皆様とお別れです。私の目には、世界はまだまだ広いままですが、クウネルを通して、素敵なことや愉快なことが、それこそ、まだまだいっぱいあると気づけました。どうってことない暮らしの中に、繰り返される日々の中に、よろこびがある。何も特別なことじゃない、毎日の中に幸せがあるのだと。
これまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
また会う日まで、どうぞお元気で。そして笑顔でいてください。
心からの感謝を込めて。