名もなき人々の歌に記憶されていたのは海を越え世界とつながる日本の魂でした。
あなたに伝えたい
世界をめぐる歌姫が、日本の伝承歌に新たな命を吹き込みました。素朴で自由な音楽に心躍らせて。
名もなき人々の歌に記憶されていたのは
海を越え世界とつながる日本の魂でした。
松田美緒さん
シンガーソングライター
まつだ・みお●2005年、日本デビュー。ポルトガル語で歌うアルバム『ルアール~海を渡った人たちへのオマージュ』等多数。
日本の古い歌なのに異国情緒が漂う。これまで聴いたことのない伝承歌の世界に、伸びやかな美声でいざなってくれるのが、松田美緒さんのCD付きブック『クレオール・ニッポン うたの記憶を旅する』(右下写真)だ。
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2014年12月発売のCDブック(アルテスパブリッシング 3,500円)。購入はCDストアか書店で。
収録された14曲は、日本各地や日系ブラジル人社会で歌い継がれてきた歌。現地でも忘れられていたような古い歌を松田さん自身が3年をかけて一曲一曲拾い集め、ブラジル音楽と融合させるなど心地よい演奏で蘇らせた。本には、歌を探す中で出会った人々についての松田さんのエッセイが収録されている。
“クレオール”とは、アフリカの旧植民地、米大陸などで混じり合った文化を表す言葉。「このタイトルをつけたのは、日本も昔から世界とつながり、多様性の中から歌が生まれてきたんだということが、歌のルーツを探す旅で実感できたからです」と松田さん。
松田さんはポルトガルの民族歌謡ファドに魅せられ24歳で渡欧し、歌手デビュー。ヨーロッパや南米の舞台で、ポルトガル語、スペイン語など多言語で歌ってきた。「それぞれの土地で魂を揺さぶられるような民謡に出合いました。日本でもそんな歌を探したいと、旅を始めたんです」
伝承歌の生まれ故郷を訪ね歩いた日々は、驚きの発見と出会いの連続だったという。
長崎県の隠れキリシタンの島に伝わる「こびとの歌」は、悲しいながらもキリスト教の神に祝福された人生を歌う、謎めいた童謡。不思議に思って100歳前後のおばあさんたちに話を聞いたところ、昔、子どもの音楽劇で歌われていたことがわかった。
戦時中、ミクロネシアから伝わった歌、「レモングラス」。歌い手を探して訪ねた小笠原諸島の父島では、松田さんが歌手として長期滞在した西アフリカの島国・カーボヴェルデから江戸末期に移り住んだ漁師の末裔という男性に会うことができた。
異文化と融合していった日本人の姿。それは松田さん自身の生き方と重なる。「自分の中の日本を探す旅でもありました。集めた歌は、聴いてくださる方々に大切に手渡す気持ちで歌っています。皆さんが歌に自分の物語を重ね、育んでもらえたらうれしいです」
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撮影・千田彩子(CDブック) 文・魚住みゆき