山で生き、老いていく夫婦の25年間が「生きる原点」に気づかせてくれました。
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山で生き、老いていく夫婦の25年間が
「生きる原点」に気づかせてくれました。
山口放送が長年シリーズで制作し、数々の賞を受賞した人気テレビ番組の映画化。監督を務めた佐々木聰さんは「2人がなぜ山にこだわるのか? それを知りたくて取材を続け、たくさんのことを教えられました。生きることへの情熱を、いくつになっても持ち続けることの素晴らしさを感じてもらいたいです」と語る。
映画の主役・田中寅夫さん、フサコさん夫妻が暮らすのは、山口県岩国市美和町の山奥。そこには、戦後自分たちで開墾した畑が広がる。夫婦はその後、娘たちの教育のため大阪に移り住んだが、還暦を過ぎて「残りの人生はあの山で過ごしたい」と戻ってきたのだ。
かくしゃくとした寅夫さんと、童女のような愛らしさを持つフサコさん。映画の冒頭、2人が力を合わせて木を切り出し運ぶ姿は、70代とは思えぬほど力強い。
しかし、佐々木さんが取材の担当になった15年前、すでに80歳を越えた田中さん夫婦に、老いが容赦なく忍び寄っていた。
「寅夫さんがゼイゼイ息を切らしながら薪割りする姿には、凄みを感じました。フサコさんはいつも僕の顔をなでて歓迎してくれたのに、次に行くと僕が誰かもわからないことが多くなって、切なかったですね」
関西で暮らす3人の娘たちは、山から下りてほしいと心配していたが、次第に両親の思いを支える方法を模索するようになる。
佐々木さんの心に今も強く残っているのは、『人間は自分で食べるものくらい自分で作らんと。土があれば何でもできる』という寅夫さんの口癖だ。
「山に通って収穫を手伝ったりするうちに、その言葉がじわじわと体にしみこんできました。僕に、生きることの根っこの部分を教えてくれようとしていたんだと」
四季折々の美しい風景の中で繰り広げられる、田中さん一家の静かなドラマ。「老い」の現実を真正面から突きつけながらも、人生の喜びや希望に光を当てた。俳優の吉岡秀隆さんのあたたかなナレーションも心にしみる。
「視聴者の方々からの感想が驚くほどたくさん寄せられ、皆さんが自分の家族の思い出と重ね合わせているのが印象的でした。この映画が、皆さんの大切な人や生きる原点を見つめ直すきっかけになればうれしいですね」