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「三英堂」の不昧公三大銘菓 若草

手みやげをひとつ (309)

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「三英堂」の不昧公三大銘菓若草

名茶人ゆかりの和菓子に、「土地の風」を感じて。


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歌舞伎や浄瑠璃といった伝統文化への深い造詣はもちろん、美しい所作や言葉遣いがテレビなどで人気の岩下尚史さん。手みやげ選びのポイントを聞くと、いかにも粋人らしい答えが返ってきた。

「普段から、わざわざお取り寄せするなんていう凝った買い方はしないんですよ。面倒くさい暮らし方は嫌いなので。大事なのは、手に入れやすいことと、日持ちがすること。それから、あまり高価すぎては先さまがお困りになるでしょう?」

こうした条件を満たすのが、菓子処松江の老舗和菓子店『三英堂』の「若草」。松江藩の第七代藩主であり、名茶人でもあった「不昧公」こと松平治郷が愛したとされる、いわゆる「不昧公好み」のひとつだ。茶道も嗜む岩下さんは、以前からこのお菓子を茶席で目にしていたが、東京の百貨店に置いてあるのを見つけて以来、買うようになったという。

「これなら、どんな人にあげてもまず心配ない。百貨店に行けばいつでも置いてあるのもいいんです。私の思う良い老舗とは、もったいをつけたり、客を選り好みしたりせず、常に同じものを提供する店。同じ味、品質を保ち続けるのは、大変な努力があるってことでしょう」

鮮やかな若草色が目を引く一口サイズの和菓子は、良質のもち米を練り上げて作った求肥に寒梅粉をまぶしたもの。求肥の柔らかさと程よい甘みは、お茶によく合う。同じく岩下さんがお気に入りだという、打物の「菜種の里」「山川」と共に、不昧公三大銘菓として知られている。

「ちょっと江戸風なところも感じられますね。当時の江戸の茶人たちの好みが参勤交代によって松江に持ち帰られ、その風土になずんだ結果できたお菓子なんじゃないでしょうか。最近は土地ごとの微妙な違いがなくなり、日本が一つになりつつある。そんな中、これには『土地の風』が確かに感じられるんです」

岩下尚史さん
いわした・ひさふみ 作家
岩下尚史さん
新橋演舞場勤務を経て、2006年に処女作『芸者論・神々に扮することを忘れた日本人』で、第20回和辻哲郎文化賞を受賞。エッセイ、書評などの寄稿も多数。TOKYO MX『5時に夢中!』に出演中。



さんえいどうのふまいこうさんだいめいか・わかくさ●島根県松江市寺町47 ☎0852・31・0122 FAX0852・27・8209 営業時間 9時〜18時30分、元日休。6個入り800円〜。賞味期限10日間。東京では日本橋三越本店『菓遊庵』にて販売。「菜種の里」「山川」は共に1枚入り700円〜。取り寄せ可。http://www.saneido.jp/
撮影・森山祐子 文・嶌 陽子