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近江屋洋菓子店のアップルパイ

手みやげをひとつ (263)

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近江屋洋菓子店のアップルパイ

手づくり感が魅力で、りんごがちゃんとおいしい。



近江屋洋菓子店のアップルパイ
近江屋洋菓子店のアップルパイ

 
人は外見で判断できないが、どう見てもバーボンやテキーラのほうがぴったりハマりそうである。

「いやいや酒も好きですけど、甘いものもいけますよ。モデルにスカウトされたのも、友だちとカフェでケーキを食べていたときだったんです」

東京の下町っ子で、おばあちゃん、お母さんが買ってくる「舟和の芋ようかん」や、「近江屋洋菓子店のアップルパイ」を食べて育ったリヒトさん。そのアップルパイは今でも「仕事先や気のおけない友だち」への手みやげの筆頭だ。

界隈に老舗の蕎麦屋さんや鶏すき専門店が残る、神田の昭和な一角に近江屋洋菓子店はある。懐かしさをかきたてる素朴なイチゴのショートケーキやシュークリーム、フルーツポンチなどが並ぶショーケース。ひと昔前のお値段もほっとなごめる。そんな近江屋洋菓子店の看板スイーツのアップルパイは、その季節ごとに一番美味しいりんごを店主自らが仕入れて煮詰め、焼きたてを出している。「りんごがちゃんとおいしい!」とリヒトさんがほめるのにも、訳があったのだった。

「アップルパイって、手づくり感があるじゃないですか。肩の凝らないカジュアルなものだけど、もらって喜ばない人はいない。ぼくはカットされたのを6個ぐらい買って、『おみやげだよ』って。箱やロゴもまた味があるんです」

おしゃれだろ、すごいだろ、という仕掛けや演出に飽きたのか、蕎麦屋もお菓子屋もベタがいいと言う。

「一見普通だけど、絶対に真似できない職人技、プロの仕事を淡々としているお店に惹かれます。そういう時代がまた廻ってきたんでしょうね」

それにしても、こんなにアップルパイを掘り下げることになると思わなかった……(笑)、とリヒトさん。きっと素朴なものほど奥が深い。

リヒトさん
モデル
リヒトさん
ドイツ人の父、日本人の母の間に東京で生まれ、ʼ95年よりファッションモデルとして海外のコレクションで活躍。カール・ラガーフェルド撮影の『Interview』(米国誌)やジル・サンダーのメインモデルを務め、最近はメンズ雑誌などを中心に大人の男を魅力的にアピールしている。



おうみやようがしてんのアップルパイ●東京都千代田区神田淡路町2・4(神田店) ☎03・3251・1088 営業時間 月〜土9時〜19時、日・祝日10時〜17時30分、不定休。創業明治17年の老舗洋菓子店で、本郷店もある。焼きたてアップルパイはホール(直径約20㎝)で3、000円、カットは1個350円。ホールはインターネットでも購入可。http://www.ohmiyayougashiten.co.jp/
撮影・中島慶子 文・室田元美