仙太郎の河内熟子
手みやげをひとつ (265)
仙太郎の河内熟子
甘酸っぱい「デジャヴュ」へと誘う、京の水菓子。
包丁を入れると、中から黄色い透きとおった寒天が現れる。しずくが落ちてきそうなみずみずしさ。なのにスプーンを押し返すほどしっかりしている。
「私は、この弾力が好き。口に運ぶと甘酸っぱくて、苦みもほどほどでしょ。すーっと通り越して、からだで吸収してくれそうな気がする。4つに切り分けて、と書いてあるけれど、ほじくって一個丸ごと平らげちゃう(笑)」
と、益永みつ枝さんが惚れ込んでいる、京都仙太郎の水菓子、「河内熟子」。数年前に京都に住む義姉が益永さんに送ってくれたのだが、口にしたとたん、デジャヴュ(既視感)のように、脳裏に鮮明によみがえる何かがあった。「このお菓子、知ってる!」。たしか子どもの頃、住んでいた大阪の家にあった、あれだ。
「食べながらいろんな想い出がボンヤリよみがえるような。たぶん、甘い物好きの母が買ってきたんだろうけど、確かめられない。もう、いないしね」
熊本の自然が育んだザボンの一種、河内晩柑をくりぬいて、なかに果汁、溶かし混ぜた糸寒天、甜菜糖、吉野葛を流し込み、固めてつくるそうだ。ひとつひとつ、昔ながらの手づくり。家で食べたあとは皮も残さず刻んでマーマレードにし、二度楽しむのが、益永さん流。
「差し上げるときには、『こんな美味しいもの知ってんだけど、どう?』って、威張りますよ。つまらない物です、なんて絶対へりくだらない(笑)。だって、手みやげは自己主張だもの」
気取ったり、がんばりすぎるものは好きじゃない。さりげなく毎日をちょっと潤してくれるものがいい。食欲がないときもおいしく食べられるこのお菓子は、益永さんが集めてくる、いい仕事をする器や道具ともつながっている。
河内熟子。風鈴のように、やさしく涼しさを届けてくれる、京の夏の便り。
益永みつ枝さん
ますなが・みつえ 「F.O.B COOP」店主
ʼ70年代、「F.O.B COOP」を立ち上げ、海外から機能的で美しい生活雑貨を輸入、雑貨やカフェブームを起こした先駆者。現在は東京・広尾店を経営。著書に『VIVA! LIVE! よくぞ女に生まれけり』(新潮社)。
せんたろうのかわちじゅくし●京都市下京区寺町通仏光寺上る中之町576 ☎075・344・0700 賚8時〜18時、無休。国産の原材料だけを使ったお菓子を製造販売。河内熟子は5〜8月上旬(売り切れまで)の販売。1個972円(税込み、籠別売り)。半日ほど凍らせてシャーベットにしてもおいしい。クール便で配送可。
http://www.sentaro.co.jp/
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撮影・中島慶子 文・室田元美