抽象的なドキュメンタリーが遠い日本で一番評価されました。
あなたに伝えたい (344)
抽象的なドキュメンタリーが遠い日本で一番評価されました。
ジャンフランコ・ロージさん
ドキュメンタリー映画監督
文・及川夕子
「みなさんが思い描くローマのイメージとは、かけ離れた場所。イタリア人の私でもほとんど知らない土地でしたが、とても興味深い人たちと会うことができました」
ローマ環状線(GRA)はローマの外縁部を、ほぼ円形を描いて1周する約70kmの高速道路。その周辺に暮らす人々を追ったドキュメンタリー映画『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』が、ヴェネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受けた。70回の歴史でドキュメンタリーに金獅子賞が与えられたのは初めてのことだ。
「賞は想像もしていなかったので、授賞セレモニーの前に帰ろうと思っていました。もちろんスピーチの準備もない。ふだん着のままステージに上がって、何を話したのかも覚えていません」
救急救命士、ヤシの木の害虫を研究する植物学者、うなぎ漁師、新興団地に暮らす老人と孫娘などの暮らしと会話をカメラは淡々と撮り続ける。大事件も声高な主張もないが、静かな画面に引き込まれる。
「カメラを回す前に何カ月もかけて友人になり、ごく自然な生活を撮らせてもらうのですが、市井の名もない人たちの会話が詩的で、ときには哲学的でさえある。驚きでしたね。また、ある意味でとても抽象的な映画なのに、それがイタリアとは距離的にも文化的にも遠く離れた日本での試写で、一番高く評価されたことも驚きでした」
『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』は8月16日(土)より、東京・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。