長い人生、仲良く暮らしたいけれど母と娘は遠慮がないのが困りもの。
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長い人生、仲良く暮らしたいけれど母と娘は遠慮がないのが困りもの。
講演に執筆に、多忙な日々を送る樋口恵子さんは今年83歳になり、50代の娘と二人暮らし。さぞや穏やかな生活かと思いきや「もう毎日ケンカばかり。わたくし、怒髪天を衝くごとくに怒っております。よく脳出血にならないわね、と周りから心配されるほどよ」と不満なご様子だ。
評論家の母と、医師である娘。何か高尚な議論でも?
「ふふふ。きっかけは大抵つまらないことですよ。冷蔵庫に残してあったものを食べたわね、みたいな。向こうはすぐ自分の専門分野での勝負に持ち込むわけ。健康に良くないとか、カビが生えるとか……。それでわたくしもカッカして『うるさい、文句あったら出てけ!』とやり返す。自分名義の家で本当によかったわ」
同居を始めたのは、樋口さんの夫が亡くなった十数年前から。
「いつの間にか台所を占拠され、我が物顔にふるまわれるようになって。クッションの役割をしてくれていた夫もおらず、激突するようになったんです。母と娘って一番遠慮がない関係ですからね」
とはいえ、娘が家事を手伝ってくれるおかげで助かっているのは事実だ。6年前、体調不良の樋口さんを夜間診療に連れて行き、大動脈瘤の発見につなげたのも娘だった。
「緊急手術で、あまりの苦痛に『次こんなことしたら許さないわよ』と娘に当たりました。でも、死なずに済んだのは彼女のおかげ。口には出さないですけど」
若くして前夫を亡くした樋口さん。娘を命に代えても守ると誓い、寝る間も惜しみ働いた。「ママは堂々としてるよ」という娘の言葉に支えられた。長年培った親子の信頼関係は揺るぎない。
「怒鳴り合った後、3分もすると娘が『梨、切ろうか?』って声掛けてくるの。ほこを収めたいときは『ふん』、言い足りないときは『あんたがむくなら食べてやる』って返事するのよ。まあこんな感じで、何とかやっております」
樋口さんが目下取り組んでいるテーマは、来る超高齢社会に向けての介護と仕事の両立について。2050年ごろには、人口の4分の1が65歳以上の女性になると予測されている。
「親子が人生の長い時間を共有する前代未聞の時代になります。大人同士で力関係が均衡し、衝突も増える。深刻な事態を避けるには、お互い仕事などで忙しくしていることも大切ね。派手にケンカしても仲直りできる。それが母と娘のいいところじゃないかな」