「紋切型」の言葉を読み解いてみると凝り固まった社会が見えてきます。
あなたに伝えたい
「紋切型」の言葉を読み解いてみると
凝り固まった社会が見えてきます。
共感しやすいフレーズ、つい使ってしまう言い回し。私たちが疑問にも思わないような言葉の数々に果敢に斬り込むのが、武田砂鉄さんの著書『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』だ。新しい才能を発掘する今年のBunkamuraドゥマゴ文学賞(東急文化村主催)を受賞した。
「今の日本には、ありきたりで、賛同を得られやすい言葉ばかりが氾濫していて、何だか気持ちが悪くないですか? 社会が思考停止に陥っているようで閉塞感があります。言葉はもっと自由で、今現在を躍動させるためにあるはず」と武田さん。本書では20の象徴的な紋切型表現を切り口に、現代の世相を読み解いた。
例えば「若い人は、本当の貧しさを知らない」という言葉。戦時中を知る文化人たちが下の世代に説教する本が売れている現状に絡め、武田さんはこう書く。
――私は戦争を知っている(けど、それを改めて考えているわけではない)、あなたは戦争を知らない(けど、考えている)というカッコが含まれているのが明らかならば、「あなた」はひとまず「私」に向かって「うるせえ」と言ってしまって構わないと思う。なぜならばそのほうが戦争は風化しないから――〈本文より〉
「戦争の話には耳を傾けるべきですが、『知らないくせに』『知らないから分からないだろう』という説教には、『今』が抜け落ちています。これから戦争の記憶を継承していくのは、戦争を知らない世代のはずです。でもそれを言ってはいけない雰囲気を感じるので、じゃあ言わせてもらおう、と」
東京オリンピック招致で使われた「今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ」というスローガンを取り上げた章では、「日本」を「ニッポン」と変換することで「見事なまでに印象をコントロールして勝利した」と皮肉った。
「多くの人に受け入れられやすいように最適化された言葉が、国やメディアから次々に発信される。そういう言葉は、とりあえず疑っておいたほうがいい」
武田さんが紋切型表現に疑問を感じ始めたのは、中学生の頃。神戸の連続児童殺傷事件で、犯人が同い年の14歳だったことからマスコミ報道で「キレる若者」と騒がれた。その後も秋葉原連続殺傷事件など、同年齢の若者による犯罪が起きるたびに、様々な分析の対象になった。
読者からの反響は、面白い部分と納得できない部分を両方挙げてくる声が多いそうだ。結婚披露宴での定番のフレーズ「育ててくれてありがとう」を考察した章について、「私は親に本心から言ったのに、茶化されて心外です」と意見されたことも。
「決して言葉狩りをしているわけじゃない。本に書いたことが全て正しいとも思いません。ただ、自分なりに咀嚼して言葉を使いたいんです。〝挑発〟を圧縮パックにしたような本ですから、もし他人がこれを書いたのなら、僕も腹を立てるかも」と笑う武田さん。
「砂鉄」はペンネームだ。「遊んでいる時は楽しいけれど、磁石から取ろうとすると面倒くさくてイラッとする。僕の文章もそうありたい。読者の胸にざらつく何かを残していければ、と思います」