竹むらの揚げまんじゅう
手みやげをひとつ (259)
竹むらの揚げまんじゅう
彗星のごとく東京コレクションやパリコレクションに登場し、今や、日本のファッション界をリードする存在になったデザイナーの三原康裕さんには、ショーの前のピリピリしたスタッフたちを、一瞬で和ませる魔法の手みやげがある。
「それが、竹むらの揚げまんじゅうです。効果は絶大。それぞれに作業していたスタッフが集まってきて、みんな笑顔になるんです。テンションも上がりますよ」
もともと、下町が大好きな三原さん。昭和5年創業の『竹むら』が店を構える神田須田町界隈は特にお気に入りだとか。
「昭和の香りのする建物や店がたくさんあって、歩くだけで刺激になります」
中でも『竹むら』は、入母屋造りの木造3階建てで、東京都選定歴史的建造物にも指定されている建物。
「だから、手みやげを買いに行ったら、ぜひ、店でも食べることをおすすめします」
店内は、小上がりとテーブル席の古風な造り。席につくと、まず出てくるのが、桜湯というのも心憎い。ひと口ふた口飲んで、口の中が塩漬けの桜の風味でいっぱいになったところに、お待たせしました、とやってくるのが、和紙を敷いた皿に乗せられた一人前2個の揚げまんじゅう。上品な甘さのこしあんを、香ばしいごま油風味のサクサクした衣が包み込んでいる。油っこさを感じないくらいの口当たりのよさだ。
「2個じゃ足らないくらい、美味しいんですよ。そして、食べながら店中を観察します。なんたって、歴史的建造物ですからね。丁寧に磨きこまれた柱や建具、丸い小石がびっしりと埋め込まれた床。昭和初期の職人の技に圧倒されます」
しばし、昭和にタイムスリップして、先人に思いを馳せるのも、悪くない。
「時代がどんなに変化しても、変わらない味、変わらない価値観。下町の心意気は、僕にいろんなことを教えてくれます」
撮影・中島慶子 文・沖さち子