FEATURE Bomb Banksy、NY滞(不?)在の軌跡
Bomb Banksy、NY滞(不?)在の軌跡
Text&Edit: Tomoko Ogawa
みんなが知ってるのに、誰もその素顔を知らないグラフィティアーティスト、バンクシー。
ゲリラ展示をめぐるドキュメンタリーに寄せて、作家山内マリコさんとアーティストユニットHITOTZUKIさんに聞きました。
ニューヨークという街が試される、
バンクシーによるアートの洗礼
山内マリコ
バンクシーの作品は多分に人を食ったところがあって、皮肉たっぷりの作風はおちょくられているようにも思えるけれど、不思議と腹は立たない。それどころか大真面目に子どものお遊びをやっている感じに、毎度ワクワクさせられる。
2013年10月、ニューヨークで1カ月にわたり、宝探しが繰り広げられていた。バンクシーが投下したアートをいの一番に見つけようと、人々は街を駆け回る。発見者がSNSに上げた写真や映像によって作品は記録されるが、興味深いのは落書きされた側の対応だ。塗りつぶしたり、転売目的で切り取ったりと、エゴや強欲さをむき出しにする者が続出。そのたびに鑑賞者は怒りに駆られるが、為す術はない。この構図は、不動産価値が高騰しすぎて文化を守ることができなくなったニューヨークの街とも重なる。バンクシーはある日突然やってきて人間性を試すような機会を与えるが、今回それを試されたのは、ニューヨークという都市なのかも。
山内マリコ
1980年生まれ。小説家。映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』を観てバンクシーに憧れ、グラフィティを始める若者を取り巻く群像劇『アズミ・ハルコは行方不明』(幻冬舎)の映画化が今年公開予定。
バンクシー作品を取り巻く、
社会と人を客観視する面白さ
HITOTZUKI(KAMI&SASU)
人々の興味をそそる謎の存在、バンクシー。そんな彼の作品を取り巻く周囲の反応を客観視するのは面白いこと。バンクシーは、社会のシステムと人の興味の動向やリアクションなどすべてを熟知しているように感じます。たとえば、もし発表の場がニューヨークでなく、日本だったら、彼はどのように行うのかと考えました。
ニューヨーク滞在中にバンクシーが残した作品の中で最も惹かれたのは、自らのスプレーアートをバンクシー作品であるということは一切隠して、ストリートで$60で販売していたことですね。「現代のアメリカンドリームを体現している」と言っていた人がいましたがとても印象的でした。
この映画を観てどんな反応を示すかで、人の生き方のスタンスも見えてきます。このコメントを書いていること自体も、1つのリアクションになるわけですから。自分だったらどうするか、そうやって想像を膨らましていくとさらに面白く観られるのではないでしょうか。
HITOTZUKI(ヒトツキ)
アーティストKAMIとSASUによるユニット。1999年に共同制作を始め壁画制作を中心に活動。ストリートカルチャーから派生した美の意識に風を吹き込み日常に新たな風景を残し続ける。www.hitotzuki.com
バンクシーって誰?
英ブリストル出身のストリートアーティスト。名前以外のプロフィールや姿を一切世間に明かしていない。イスラエルのヨルダン川西岸分離壁にゲリラで9枚の絵を残したり、自らの作品を大英博物館などに無断で展示したり、ディズニーランドを風刺した陰気なテーマパーク「Dismaland」を期間限定でオープンしたりと社会風刺的メッセージを発信し続ける。
『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』(11)
DVD ¥4,800
角川映画
バンクシー初監督作品。現代のアート業界をユーモアたっぷりに皮肉ったドキュメンタリー。アートの知識も技術もない男が、バンクシーらによって一流アーティストに仕立て上げられる様を追う。
『BANKSY
IN NEW YORK』
¥2,200
PARCO出版
長年にわたってストリートアートを追いかけているグラフィティライター、レイ・モックがニューヨーク滞在中のバンクシーに完全密着したルポルタージュ作品集。撤去された作品もすべて収録されている。
『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』(14)
クリス・モーカーベル監督作。告知もなく始まったバンクシーのニューヨーク展示。毎日どこかの路上に残され、Instagramに投稿された作品を求め宝探しをする人々を追うドキュメンタリー。3月26日より渋谷シネクイントほか公開。