第6回 水餃子がとまらない
ペリカン戸田の遠い夜明け
第6回
水餃子がとまらない
今宵のペリカンは、編集部を飛び出して夜の街へ。
待ち合わせ場所に現れたのは、作家の吉本由美さんと、マドロスことカメラマンの長野陽一さん。去年、中国の西安へ水餃子の取材にでかけたメンバーだ。あの時の吉本さんは、本当にすごかった。小さな体からは想像つかないほどの旺盛な食欲で、連日連夜飽きることなく水餃子を平らげていたっけ。マドロスは餃子の皮のいろいろな包みかたをマスターしていたし、もともとは焼き餃子派だったペリカンも、この旅で水餃子の世界の奥深さにハマってしまった。
それゆえこの3人が集まったら目的はただひとつ、もういちど心ゆくまで水餃子を食べることだ。今回は吉本さんの「ものすごく値段が安いんだけど、なかなかおいしい餃子を出す店があるのよ」とのひとことで、招集がかかったというわけ。
ひと皿に3つで、105円也。セロリ、キノコなど、餃子の具は26種類もあった。ふくふくとした皮のなかからしみだしてくる肉汁に喜びの声をあげ、「この具の味つけには何の調味料を使っているんだろうか?」などと話が弾む。炒め物や鍋、麺などのほかのメニューには目もくれず、ひたすら水餃子だけを注文し食べ続けるあやしい3人組。テーブルの上には、まるで回転寿司のように、空いた皿がどんどん積み重なっていく。かなり大ぶりな餃子およそ20種類、計60個を食べて宴はお開きとなり、満足して店をあとにした。
しかしそれも束の間、帰り道にみんなの口をついて出たのはこんな言葉。「具にはもっと山椒を効かせたいよね」「もうちょっと小ぶりなほうが、たくさん食べられて楽しいですね」「黒酢と辣油と香菜でつくったタレで食べたほうがおいしかったかも」「ああ、やっぱり茴香入りの餃子の味が忘れられない」。
そこでハタと気がついた。もう、食べるだけじゃ物足りないのだ。実はペリカン、大きな麺台と中華包丁を購入し、水餃子づくりの腕を磨こうと励んでいる真っ最中。中国の取材で会得した技を披露したくてムズムズしているのだ。餃子の魅力って、作る楽しさによるところも大きいなと、あらためて感じた。たぶん吉本さんもマドロスも同じ気持ちなんじゃないかと思う。次回は手作り餃子の会を開きましょうね。そう約束して、家路についた。