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第8回 カヌーの虜?


ペリカン戸田の遠い夜明け

ペリカン戸田の遠い夜明け sun
クウネル編集部の戸田史です。「いちおう最年少ですが、三十路半ばです」と自己紹介し続けて幾歳月。三十路半ばずいぶん前に卒業したけれど、最年少編集部員からはなかなか卒業できません。ここでは、編集部で(主に)夜な夜な起こる、ヘンな出来事やちょっといい話などをご紹介していきたいと思います。
 

第8回
カヌーの虜?

北海道、道央の南方を流れる鵡川(むかわ)の河原。ペリカンおよびクウネル取材チームは、ここにテントを張って一晩を過ごそうとしています。北海道に来た目的は、ネイチャーガイドの大野さん夫妻の取材。今日は、ふたりが企画する1泊2日の川下りカヌーツアーに同行しているのです。

ツアー参加者は5名。札幌から来た内藤さんご夫妻、東京と千葉からは、チカコさんとエミコさん、神戸から参加のミユキさん。みんなカヌーのベテランだ。それに比べてクウネルチーム3名は、ほぼカヌー初体験。「転覆したらどうしよう」「わたし、泳げないんですけど…」と、おっかなびっくりだ。挑戦したのは、1艇に2名が乗り込むタイプのカヌー。ペリカンはバウと呼ばれる前方に乗り、後ろにはガイドスタッフのヤマネさんが同乗してくれた。艇が川の流れにのってきたところで、水面にパドルを差し込み、ぐいっと後方へ水を掻いてみる。おおー、進んだ! ぐんぐんと景色が進んでいく。真っ青な空に新緑が眩しい。白鷺が、まるで私たちの案内役のように中洲から中洲へと飛んでいきます。森のほうからは、エゾハルゼミという春に鳴くセミの声(カエルの鳴き声に似ている)が聞こえてきます。気持ち良いことこのうえなし。怖がっていたことなんてすっかり忘れて、前へ前へと漕ぎ進める。意気揚々と(きっと、鼻の穴を膨らませていたはず)川の流れを読みながらパドルの位置を微妙に変えてみる。ちいさな瀬を渡るときは、まるで滝を下るかのような張り切りっぷりです。しかし、日頃の運動不足がたたって、ほどなくバテ気味になってきて、パドルを動かす手を休めてみた。すると、自分が一緒に漕いでいたときと変わらぬスピードで、カヌーが進んでいるではないですか! 愚かですね。主な動力となっていたのは、後方で黙々と漕ぎ続けているヤマネさんだったのです。ヤマネさん、ごめんね。そしてありがとう! もっと練習して、少しは役に立てるようになりたいものです。それにしても、ゆったりのんびりのカヌーツアー(ペリカンはかなりがむしゃらでしたが)、虜になってしまいそう。

そんなこんなのカヌーツアーを振り返りながら、おしゃべりの花が咲くキャンプの夜。6月初旬とはいえ、北海道の春はまだ始まったばかりで、夜の気温は10度を下回っています。「寒いけど裸足になってみて。火にかざすと、温まるんですよ」と大野さんに教えられ、長靴を脱ぎ、2重に重ねていた5本指ソックスも脱いで、焚火に足をかざしてみる。なるほど、芯からほかほかとしてきた。裸足をぶらぶらさせて、揺れる炎を眺めながらホットワインを飲み、ペリカンはすっかりいい気分になっています。見上げれば満天の星空。さてとそろそろ寝袋に入ろうかな。