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第26回 旅先でコトコト


ペリカン戸田の遠い夜明け

ペリカン戸田の遠い夜明け sun
クウネル編集部の戸田史です。「いちおう最年少ですが、三十路半ばです」と自己紹介し続けて幾歳月。三十路半ばずいぶん前に卒業したけれど、最年少編集部員からはなかなか卒業できません。ここでは、編集部で(主に)夜な夜な起こる、ヘンな出来事やちょっといい話などをご紹介していきたいと思います。
 

第26回
旅先でコトコト

11月の終わりに長めの休暇をいただいて、ヨーロッパのはじっこのほうに行ってきました。ふだんから行き当たりばったりの旅行をすることが多いペリカン、今回も飛行機でトルコのイスタンブールに入り、ブルガリアのソフィアから帰ってくる事だけ決めて、あとは無計画。気の向くままのぶらり旅です。

イスタンブールで数日を過ごし、ケバブや塩鯖(サンドイッチにするのがトルコ風)、レンズ豆のチョルバ(スープ)、冬の名物の小イワシのフライなどなどたらふく食べて、お腹が満足したところで、さて、次はどこに行こうか…と、街はずれの長距離バス乗り場まで行ってみた。あっという間に客引きのおじさんに取り囲まれ「ギリシャ行くのか?」「グルジアならうちだ!」「ブルガリアだろ?」。まよった末に、ルーマニアのコンスタンツァという黒海沿岸の街に行くバスに乗ることに。たっぷり10時間以上の移動。地元に帰るルーマニア人一家の賑やかなおしゃべりに囲まれた楽しい道中でしたが、トルコからブルガリア、ルーマニアと2回の国境越えがあって、へとへとになった三十路ペリカン。ルーマニアをうろうろした後は、隣にあるモルドヴァという国を目指しました。

旅が長くなってくると「ああ、部屋に台所があれば!!」という気持ちがむくむくわき上がる。青空市場できれいなズッキーニやおいしそうなキノコや、なぞの手作り調味料や乾物を見つけたとき、とくにそう思う。街の食堂で食べたおかずがおいしいと、真似して作ってみたくなったりもします。というわけで、モルドヴァの首都キシニョウではキッチン付きのアパートメントを借りることにしました。市場の近くにある、ごくごく普通の団地の一室。ホテルよりも安いうえに、清潔で、暖房も効いていて快適。隣の部屋の窓には洗濯物のシーツがはためいています。昼間は街を歩きまわり、蚤の市で食器や鍋を買い、賑やかな市場で調味料や食材を調達してきたら、夜は部屋でのんびり晩ごはん。ルーマニアで食べた焼き茄子をペーストにしたお惣菜の真似っこや、キノコのソテー、野菜の煮込み。食事のお供は赤ワイン。モルドヴァはワインの産地で、市場には手作りワインをペットボトルに入れて売り歩くおばちゃんがたくさんいるのです。微発泡の若いワインは、ぶどうジュースみたいに飲める。毎日、いろんなおばちゃんのワインで晩酌していました。

アパート住まいがすっかり気に入り、ブルガリアに移動してからもキッチン付きの部屋に泊まっていたペリカン。ある日ソフィアの市場で、ふつうの玉ねぎや小玉ねぎと並んで、小指の先くらいのとてもちいちゃな玉ねぎを売っているのを見つけ、スープにしようと買ってみた。「ブルガリアのお母さん達も、こんな小さな玉ねぎ剥くの大変だろうなぁ」なんて思いながら、黙々と300個以上のミニミニ玉ねぎの皮をちまちまと剥き(けっこう根気のいる仕事)、干しマッシュルームでとった出汁とスパイスで煮込んで塩こしょう、ディルを散らしてスープのできあがり。うむ、なかなか和む味だと満足していたのですが……翌朝、ブルガリアについて書かれた本を読んでいたら、あのミニミニ玉ねぎは、畑に植える種として売られているのだとか……。そういえば市場のおじさん、ブルガリア語でなんか言ってたよなぁ。あれは「いい種だよ~!」とか言ってたのかしら。あんなにたくさんの皮を剥いたペリカンって……。ま、おいしかったからいいんですけどね。