マガジンワールド

第41回 夜の森


ペリカン戸田の遠い夜明け

ペリカン戸田の遠い夜明け sun
クウネル編集部の戸田史です。「いちおう最年少ですが、三十路半ばです」と自己紹介し続けて幾歳月。三十路半ばずいぶん前に卒業したけれど、最年少編集部員からはなかなか卒業できません。ここでは、編集部で(主に)夜な夜な起こる、ヘンな出来事やちょっといい話などをご紹介していきたいと思います。
 

第41回
夜の森

今宵のペリカン、森の中をおそるおそる歩いています。

ここは山形県の朝日町。この町で25年前から蜜ろうそく(蜂蜜の巣から作ったろうそく)を作り続けている安藤竜二さんに案内していただき、夜の森にやってきたのです。

夜、といっても時刻はまだ6時半をまわったばかり。東京にいるときは、煌煌と灯りのついた編集部でまだまだ仕事三昧のにぎやかな時間帯ですが、森の中はもう真 夜中のような静けさ。ヘッドライトのスイッチを切ると、そこには漆黒の闇だけが、ただひたすら広がっていました。あっという間に、右も左も、来た道の方角もわからなくなるペリカン。枯れ葉がハラハラと落ちる音にもハッと振り返ってしまうくらい、耳が敏感になる。遠くからは、動物(たぶん山猫でしょう、と安藤さん)が動き回るカサカサ…という足音も聞こえてきて、ちょっとコワイ……! 

怯えるペリカンの足もとに、ぽっと黄色い灯りがともされました。ろうそくです。なんとあたたかな光。ほんのりと照らしだされた樹々の緑を目にして、緊張がふと緩みます。同じ場所にいるとは思えないような、不思議な安心感。膝を抱えて灯りのそばにしゃがみこみ、しばしろうそくの灯りでの自然観察を楽しんだ取材班。そろそろ森を出る時刻となり、名残惜しいなぁと思いつつ…火をそっと吹き消すと、とたんに漆黒の闇の世界が戻ってきました。さっきまでとひとつだけ違ったことは、樹々の間からのぞく夜空を見上げる心の余裕ができたこと。そこには息を飲むような、満点の星空が広がっていました。

詳しくは次号の特集をお楽しみに。