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第35回 真似っこするなら


ペリカン戸田の遠い夜明け

ペリカン戸田の遠い夜明け sun
クウネル編集部の戸田史です。「いちおう最年少ですが、三十路半ばです」と自己紹介し続けて幾歳月。三十路半ばずいぶん前に卒業したけれど、最年少編集部員からはなかなか卒業できません。ここでは、編集部で(主に)夜な夜な起こる、ヘンな出来事やちょっといい話などをご紹介していきたいと思います。
 

第35回
真似っこするなら

今宵のペリカン、バルコニーでたこ焼きを焼いております。

ここは、とある取材で訪れたお宅。(東京のとある街に暮らす3人の女の子の取材でした。詳しくは次号のクウネルをお楽しみに!)朝からはじまった撮影とインタビューがようやく終わったのは、午後5時ごろ。そろそろお腹がすいてきたね、ってなわけで、そのまま、たこ焼き会にお呼ばれとあいなった。たこ焼きは今回取材をした、なっちゃんの十八番(おはこ)。ふだんは企業のシステムエンジニアをしている彼女は、縁あってたこ焼き屋台を手伝った経験があり、そのたこ焼き屋の大将にも「筋がイイネ」と認められた腕前なのだ。

梅雨の合間の晴れた夜。集まったのは取材スタッフのほかに、ご近所のお友達など総勢8名。気持ちよい風が通り抜ける広ーいバルコニーにゴザを敷き、部屋からローテーブルを運んできて、たこ焼き器をセット。カセットコンロ式で、プレートは重たい鉄製だ。プレートにはきれいに油が塗られていて、大切に扱われていることがよく解る。よく熱したプレートに、種がなみなみと注がれた。続いてたこ、キャベツ、天かす、紅生姜……と、次々に具が投入される。串を手に、腰にもう片方の手を当てた格好のなっちゃんは、真剣な面もちで、ちょんちょんくるりとたこ焼きをひっくり返していく。さっきまで、なんやかやとかまびすしくおしゃべりをしていたのに、きゅっと口を結んで、黙々と焼いている。みんなはビール片手にわいわいとそれを見守っています。ああ、いいにおい。お腹がぐうと鳴ります。

ほどなくして、ふくふくとまるいたこ焼きが焼きあがった。青のりと鰹節とソースをかけて、あつあつを頬張る。はふはふ。おいしい! 空の下で食べるって気持ちいいね、テンションあがるね、なんて言い合うその横で、職人なっちゃんはすでに次のたこ焼きにとりかかっている。お、今度はチーズ入りですね。すいすいくるりと串を動かすなっちゃんの手さばきをじいっと見ていたら、どうやらじいっと見すぎていたようで、「焼きたいんでしょう?」とみんなに言われてしまった。はい、その通りです。というわけで4巡目のたこ焼きは、ペリカンが焼くことに。うわあ、自分で焼くのって何年ぶりかしら。中学生の時以来かも、と大騒ぎのペリカン。なっちゃんを真似て腰に手を当て、すいすいくるりとやっているつもりなのだが、外はカリっと中はふわふわの、かんぺきな、満月みたいに美しいまん丸にするのは意外と難しい。ペリカン、「たこ焼きなんて簡単よ~」と見くびっていたのかもしれません。「そうだよ、たこ焼きは刻一刻と状況が変わるからね。しゃべってる暇なんてないの。無言で集中!」となっちゃん師匠。そうですね、手よりも口が動いてしまっていているのがいけないのですね。真似は上達の近道というけれど、何事も、スタイルよりもまずは心意気から真 似っこせねば、と心に誓ったペリカンでした(大げさ?)